第11話 俺に優しくしてくれてもいいと思うんだけど!
『......なぁ、なんか虚しくないか?』
言い争いを始めて数分が経過した頃、少し遠い目をしながらゆうがぽつりと言った。それに対してリンが怒り以外よ理由で顔を紅潮させながら、引くに引けないのか虚勢を張りながらゆうに食ってかかる。
「貴方が原因でしょう!?」
『あー、まぁそうだけどさ』
急に冷静になったようで、ゆうはリンの方を見ずそっぽを向いて口を開いた。
『こんなくだんない事で時間を浪費して、神社につくの遅れたらお前の主様? 、かなり不機嫌になるんじゃないかと気づいたら寒気が......』
両腕で自分の肩を抱きながら、わざとらしくゆうはブルブルと震える。しかし心なしか、顔色が青白くなったように見える。その怯えた様子を見て、リンの頭も冷えていった。
「そうですね......。主様に迷惑だけはかけたくありません」
『お......おう』
お前は本当にさや中心だなと言いそうになったが、すんでのところで飲み込んだ。また言い争いにでもなったらたまらない。
リンにバレないように小さく息を吐く。
そこでゆうは、はたと気づいた。近くの木陰から押し殺したような笑い声が微かに聞こえた。ゆうは人差し指を口元に当て、リンに黙るように指示を出す。
そして静かに笑い声が聞こえた木の元へ近づき、覗き込もうとした瞬間、ゆうは頭に強い衝撃を受けた。
「何くだらない事に時間を費やしてんの君達」
そこには無表情の朔夜が拳を握りしめながら立っていた。そして痛がっているゆうを一瞥するとリンを見る。
「君もゆうに構ってないで、無視するぐらいしても問題ないよ」
「主様! すみません、つい......!」
リンは朔夜に頭を下げる。そしてゆうから視線を外す。
『さや、ここ最近の神隠しの件、こいつが知ってるみたいだぞ』
「?」
ゆうが木陰を覗き込みながら朔夜に声をかける。神隠しと聞き、朔夜の顔色が変わる。そしてゆうに近づくと同じように木陰を覗き込む。
そこには真っ白い猫がいた。2本に別れた尻尾がそれぞれに揺れている。
「猫又? 珍しい」
そう言って朔夜は迷わずに猫又に近づく。
「君達のお仲間からの依頼で神隠しの原因の穴と、住人を穴の中に引き摺り込んでいる元凶を探してる。どちらか心当たりある?」
猫又の顔を見ながら朔夜は真剣に言う。すると猫又はニタァと人のように笑う。普通の人が見れば不気味に見えただろう。しかし、朔夜は気にした様子もなく視線で先を促す。
『教えてやってもいいが、久々に新鮮な魚を食べたい』
「.........リン」
条件を提示され朔夜は一瞬考えてからリンの名前を読んだ。名を呼ばれて嬉しそうにしているリンに指示を出す。
「確か近くに川があったはずだから、魚捕まえてきて」
「分かりました、主様!」
嬉しそうにそういう時リンはトンっと地面を蹴ると同時に人の姿が歪んで形を変えた。
そこには5色の鱗で覆われた、龍のような顔に鹿のような胴体、馬のような蹄、ライオンのような尾を持った神獣――麒麟が本来の姿を露にしていた。
『すぐに新鮮な魚をたくさん持って参ります』
そう言って、空に飛び立っていった。
『さや、お前......。神獣、しかも麒麟に魚を取らせるって』
神獣麒麟は平和の象徴とされ、元来殺生を好まない優しい性格だ。朔夜との契約により若干歪んで主様命! 主様のためならなんなりと! と朔夜と弱者以外には優しくない。麒麟の伝説を知っているゆうとしては受け入れ難い存在になっていた。
「契約獣をどう使おうと僕の勝手。それにお願いしただけで、命令はしてない。リンは自分の意思で動いてる」
「何をやってんだ」
後ろからコウが歩いてくる。すぐにゆうはコウに近寄り状況の説明をする。
「リンに魚獲りを頼んだだぁ? 麒麟は不殺生だぞ。どうせ捕まえられない。俺が行ってくる」
そう言い、コウもまた人の姿から本来の神獣――黄竜の姿に戻る。黄金に輝く鱗が日の光を反射し、眩しい。
『アイツは近くの川に行ったんだな?』
そう確認してコウもリンを追いかけるようにして川に向かっていった。その姿を見送りながらゆうはやはり伝説の神獣2体を平然と使う朔夜の度胸に度肝を抜かれる。
いくら契約をしてるからって伝説上の生き物とされている最高位の存在だぞ? そもそも契約をしたと聞いた時は既にないはずの心臓が止まるかと思ったほどだ。
付き合いも長くなり、気軽に話せるようになったとはいえこの扱いは。本当に大物だわと朔夜の認識を改める。
「何百面相してるわけ? 鬱陶しい」
『さやはもう少し俺に優しくしてくれてもいいと思うんだけど!』
ゆうの心の叫びを無視し、朔夜は猫又と一緒に2体の帰りを待った。
♢♢♢♢
『リン......何をやろうとしている』
意を決して川に入ろうとしたリンをコウが止める。
『コウ? どうしてここにいるんですか?』
『アイツがテメェに魚獲りを頼んだと聞いたからな。不殺生はどうした』
『主様のためならば......!!』
『やめとけ、体が震えてるじゃねぇか。心と体が噛み合ってねぇ、堕ちるぞ』
『......』
リンの体が微かに震えていることに気づき、コウは指摘する。そしてこれぐらい俺がやるといい、人型の姿になる。そして川の前で手をかざす。
すると川の中からサッカーボール大の水球が現れる。中には数匹の魚が泳いでいる。
「これでいいだろ、帰るから背に乗せろ」
その様子を見ていたリンにコウは声をかける。そして人型のまま水球を操り麒麟の背に乗り朔夜たちの元へと向かった。