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第37話 鬼の首魁

久遠の屋敷に1人の赤い短髪の青年が訪れていた。着物を着ており、胸元から腹にかけて大きく開いており、鍛え抜かれたと思われる筋肉がのぞいている。縁側から久遠の屋敷に無断で入った青年は、慣れた様子で工房に入る。
 そして作業中の久遠に話しかける。

「よぉ、久しぶりだな。白澤」

 久遠はチラリと青年を見るとため息をついた。

「酒呑童子か、何の用だ」

 青年、酒呑童子は楽しそうに笑う。どこかこの状況を楽しんでいるようにも思える。

「いや、黄竜の奴から隠世の危機だと聞いてよ、こりゃ朔夜に呼ばれる可能性もあるだろうから道具の調達になぁ」
「珍しいな、今まで隠世の危機でも無視して酒を呑み続けていたじゃろう」

 久遠は作業の手を止めないまま、酒呑童子に話しかける。それを聞き、酒呑童子は豪快に笑う。

「そりゃ、そうだ。だが今回は話が違う。俺は朔夜を気に入ってるからなぁ。とりあえずあいつと酒を酌み交わすまでは死んでもらったら困るんだよ」
「......傲慢なお前が気にいるとは本当に珍しいものじゃ」 

 そこでやっと久遠は手を止めて酒呑童子を見た。酒瓶片手にニヤニヤと笑いながら酒を煽っている。

「前も言ったが、工房内での飲酒は禁止じゃ」
「おー、そうだったな、悪かった」

 心のこもってない謝罪をし、酒呑童子は手の甲で口を拭く。
そして酒瓶の蓋を閉じる。

「で、今回の敵は天邪鬼なんだろう? 何か頼まれて作ってんだろ?」
「......まぁ、封印用の道具はある。そして今、ゆうからの頼まれた物が完成したところじゃ」
「は? 晴明・・に?」

 酒呑童子は珍しく驚いたように目を丸くした。久遠は完成した道具から目を離さずに酒呑童子の疑問に答える。

「ああ、今の葦原村に安倍晴明・・・・の生まれ変わりの肉体があるらしい。ゆうが言ってるから間違い無いだろう」
「へぇ。晴明のやつ、そいつの体乗っ取る気か。それは面白い。朔夜を守るついでにその様子を酒の肴にでもするか」

 どこか他人事のように酒呑童子は笑う。そのタイミングで知世が久遠の工房まできた。そして真剣な表情で苦言する。

「酒呑童子様、流石に今このタイミングでは不謹慎です」
「へぇ、キョンシーが俺に逆らうのか?」

 ピキピキと酒呑童子の額から音がなり、2つの角が生えてくる。知世は怯んだ様子もなく、淡々と告げる。

「逆らうつもりはございません。しかし、今さっきコウ様から通信がありました。葦原高校ごと空間が切り取られたと」
「へぇ、境界の破壊の為の生贄にそこを選んだか」

 酒呑童子は角を引っ込めて興味深そうに顎に手を当てる。その言葉に久遠も頷いた。

「そうだな、葦原高校を自分の領域にしてそこを境界化させるのが目的じゃろうな」
「へぇー、頭使ってやがるじゃねぇか、面白ぇ」

 楽しそうに酒呑童子を口元を歪める。それとは反対に久遠の表情は固い。

「境界同士の干渉はできない。空間が閉じる前に合流する必要がある」
「そうですよね」

 久遠と知世が酒呑童子を見つめる。久遠も知世も戦闘能力はない。行っても足手纏いになるのが目に見えている。だから最強の鬼である酒呑童子は最高の戦力になる。

「ふっ、俺は朔夜に呼ばれるまでは行く気はねぇよ」
「酒呑童子......」

 酒呑童子は自分の意思を曲げる気がないように胸の前で腕を組み状況を見守ろうとしている。その様子に久遠は呆れたようにため息をついた。それでも朔夜の危機に気づけばどんな手を使っても行くだろうと久遠は当たりをつける。無理強いをするほどヘソを曲げる性格だと長い付き合いから久遠は知っていた。

 久遠は知世に目配せをして落ち着くように伝える。知世に久遠の想いは伝わったようで知世は小さく頷く。そして、そのまま頭を下げてその場を去った。

「キョンシーをよく躾けているなぁ」
「知世は知世だ。キョンシー扱いはあまりしないで欲しいのう」
「はっ、それは俺が決める」
「知っとるよ」

 慣れたように会話のキャッチボールをしながら、久遠は朔夜に頼まれた封印用の道具とゆうから頼まれた強制的に・・・・体を乗っ取る・・・・・・道具を小さなポーチに詰めた。
 そして酒呑童子に視線を向けた。

「どうせ、呼ばれるまでここにおるんじゃろう。知世が肴を用意しにいっておる。動ける程度にセーブするんじゃぞ?」
「流石、白澤。わかってるなぁ」

 酒呑童子は上機嫌に工房から客間に移動する。久遠はその後ろ姿を見て再度ため息をつくとポーチを持って酒呑童子に続いた。
 すでに客間には知世の用意した即席の肴と数種類の酒類。そして久遠用と思われるお茶が置いてあった。

 久遠は机の前に座りお茶を啜る。どれだけ焦ってもこちらは何もできない。ただ朔夜達の無事を祈ることしか出来ない。

「首魁、ここでしたか!?」

 縁側から緑色の長髪を靡かせた着物姿の女性が入ってきた。酒呑童子はチラリと確認すると一口酒を口に含んだ。

「おお、どうした茨木童子」

 茨木童子は少し焦った様子で酒呑童子に近づく。そして、膝をつき首を垂れた。

「首魁、隠世の危機です。新たな境界が発生しようとしています。すぐに避難を」
「ふっ、面白いことを言うな、茨木ぃ。こんな愉快な出し物は早々ねぇんだぞ? 今呑まないでいつ呑むんだよ」

 笑いながら、酒呑童子はまた酒を煽った。茨木童子は酒呑童子の言葉に一瞬驚いた様子を見せたが、すぐに冷静になる。

「そうでしたね。失礼いたしました」

 茨木童子はそう言うと立ち上がる。その時だ、酒呑童子が酒瓶を口から離してニヤリと笑う。

「やっと呼んだな」

 どこか嬉しそうな声を出し、久遠を見る。そして手を出す。

「呼ばれたから行ってくる。朔夜に渡す物貸せ」
「......これだ。腕輪はゆう用じゃ」
「おう、わかった。じゃぁ、いっちょ隠世と境界を救ってきてやるよ」
「首魁、私も!」

 立ち上がった酒呑童子に茨木童子もついて行こうとする。しかし、すぐに酒呑童子に断られた。

「お前は、隠世に待機だ。大丈夫だと思うが隠世に影響があったらお前が対処しろ」
「わかりました。いってらっしゃいませ」

 茨木童子は納得したようで酒呑童子に頭を下げる。

「おう」

 酒呑童子は短くそう返すと右の踵を一度鳴らす。すると、酒呑童子の姿がその場から消えた。

「朔夜達を頼んだぞ、酒呑童子」

 消えた空間を見つめながら久遠は小さく呟いた。
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境界の管理人 〜隠世と現世の狭間で織りなす青春奇譚〜作者:星川宙
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第37話 鬼の首魁

久遠の屋敷に1人の赤い短髪の青年が訪れていた。着物を着ており、胸元から腹にかけて大きく開いており、鍛え抜かれたと思われる筋肉がのぞいている。縁側から久遠の屋敷に無断で入った青年は、慣れた様子で工房に入る。
 そして作業中の久遠に話しかける。

「よぉ、久しぶりだな。白澤」

 久遠はチラリと青年を見るとため息をついた。

「酒呑童子か、何の用だ」

 青年、酒呑童子は楽しそうに笑う。どこかこの状況を楽しんでいるようにも思える。

「いや、黄竜の奴から隠世の危機だと聞いてよ、こりゃ朔夜に呼ばれる可能性もあるだろうから道具の調達になぁ」
「珍しいな、今まで隠世の危機でも無視して酒を呑み続けていたじゃろう」

 久遠は作業の手を止めないまま、酒呑童子に話しかける。それを聞き、酒呑童子は豪快に笑う。

「そりゃ、そうだ。だが今回は話が違う。俺は朔夜を気に入ってるからなぁ。とりあえずあいつと酒を酌み交わすまでは死んでもらったら困るんだよ」
「......傲慢なお前が気にいるとは本当に珍しいものじゃ」 

 そこでやっと久遠は手を止めて酒呑童子を見た。酒瓶片手にニヤニヤと笑いながら酒を煽っている。

「前も言ったが、工房内での飲酒は禁止じゃ」
「おー、そうだったな、悪かった」

 心のこもってない謝罪をし、酒呑童子は手の甲で口を拭く。
そして酒瓶の蓋を閉じる。

「で、今回の敵は天邪鬼なんだろう? 何か頼まれて作ってんだろ?」
「......まぁ、封印用の道具はある。そして今、ゆうからの頼まれた物が完成したところじゃ」
「は? 晴明・・に?」

 酒呑童子は珍しく驚いたように目を丸くした。久遠は完成した道具から目を離さずに酒呑童子の疑問に答える。

「ああ、今の葦原村に安倍晴明・・・・の生まれ変わりの肉体があるらしい。ゆうが言ってるから間違い無いだろう」
「へぇ。晴明のやつ、そいつの体乗っ取る気か。それは面白い。朔夜を守るついでにその様子を酒の肴にでもするか」

 どこか他人事のように酒呑童子は笑う。そのタイミングで知世が久遠の工房まできた。そして真剣な表情で苦言する。

「酒呑童子様、流石に今このタイミングでは不謹慎です」
「へぇ、キョンシーが俺に逆らうのか?」

 ピキピキと酒呑童子の額から音がなり、2つの角が生えてくる。知世は怯んだ様子もなく、淡々と告げる。

「逆らうつもりはございません。しかし、今さっきコウ様から通信がありました。葦原高校ごと空間が切り取られたと」
「へぇ、境界の破壊の為の生贄にそこを選んだか」

 酒呑童子は角を引っ込めて興味深そうに顎に手を当てる。その言葉に久遠も頷いた。

「そうだな、葦原高校を自分の領域にしてそこを境界化させるのが目的じゃろうな」
「へぇー、頭使ってやがるじゃねぇか、面白ぇ」

 楽しそうに酒呑童子を口元を歪める。それとは反対に久遠の表情は固い。

「境界同士の干渉はできない。空間が閉じる前に合流する必要がある」
「そうですよね」

 久遠と知世が酒呑童子を見つめる。久遠も知世も戦闘能力はない。行っても足手纏いになるのが目に見えている。だから最強の鬼である酒呑童子は最高の戦力になる。

「ふっ、俺は朔夜に呼ばれるまでは行く気はねぇよ」
「酒呑童子......」

 酒呑童子は自分の意思を曲げる気がないように胸の前で腕を組み状況を見守ろうとしている。その様子に久遠は呆れたようにため息をついた。それでも朔夜の危機に気づけばどんな手を使っても行くだろうと久遠は当たりをつける。無理強いをするほどヘソを曲げる性格だと長い付き合いから久遠は知っていた。

 久遠は知世に目配せをして落ち着くように伝える。知世に久遠の想いは伝わったようで知世は小さく頷く。そして、そのまま頭を下げてその場を去った。

「キョンシーをよく躾けているなぁ」
「知世は知世だ。キョンシー扱いはあまりしないで欲しいのう」
「はっ、それは俺が決める」
「知っとるよ」

 慣れたように会話のキャッチボールをしながら、久遠は朔夜に頼まれた封印用の道具とゆうから頼まれた強制的に・・・・体を乗っ取る・・・・・・道具を小さなポーチに詰めた。
 そして酒呑童子に視線を向けた。

「どうせ、呼ばれるまでここにおるんじゃろう。知世が肴を用意しにいっておる。動ける程度にセーブするんじゃぞ?」
「流石、白澤。わかってるなぁ」

 酒呑童子は上機嫌に工房から客間に移動する。久遠はその後ろ姿を見て再度ため息をつくとポーチを持って酒呑童子に続いた。
 すでに客間には知世の用意した即席の肴と数種類の酒類。そして久遠用と思われるお茶が置いてあった。

 久遠は机の前に座りお茶を啜る。どれだけ焦ってもこちらは何もできない。ただ朔夜達の無事を祈ることしか出来ない。

「首魁、ここでしたか!?」

 縁側から緑色の長髪を靡かせた着物姿の女性が入ってきた。酒呑童子はチラリと確認すると一口酒を口に含んだ。

「おお、どうした茨木童子」

 茨木童子は少し焦った様子で酒呑童子に近づく。そして、膝をつき首を垂れた。

「首魁、隠世の危機です。新たな境界が発生しようとしています。すぐに避難を」
「ふっ、面白いことを言うな、茨木ぃ。こんな愉快な出し物は早々ねぇんだぞ? 今呑まないでいつ呑むんだよ」

 笑いながら、酒呑童子はまた酒を煽った。茨木童子は酒呑童子の言葉に一瞬驚いた様子を見せたが、すぐに冷静になる。

「そうでしたね。失礼いたしました」

 茨木童子はそう言うと立ち上がる。その時だ、酒呑童子が酒瓶を口から離してニヤリと笑う。

「やっと呼んだな」

 どこか嬉しそうな声を出し、久遠を見る。そして手を出す。

「呼ばれたから行ってくる。朔夜に渡す物貸せ」
「......これだ。腕輪はゆう用じゃ」
「おう、わかった。じゃぁ、いっちょ隠世と境界を救ってきてやるよ」
「首魁、私も!」

 立ち上がった酒呑童子に茨木童子もついて行こうとする。しかし、すぐに酒呑童子に断られた。

「お前は、隠世に待機だ。大丈夫だと思うが隠世に影響があったらお前が対処しろ」
「わかりました。いってらっしゃいませ」

 茨木童子は納得したようで酒呑童子に頭を下げる。

「おう」

 酒呑童子は短くそう返すと右の踵を一度鳴らす。すると、酒呑童子の姿がその場から消えた。

「朔夜達を頼んだぞ、酒呑童子」

 消えた空間を見つめながら久遠は小さく呟いた。
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