ホーム›殴る勇者と斬る魔王›48.迎えに
← 次の話目次前の話 →

48.迎えに

 物影で座り込んで動けないウルラートと、それを見つめる3人。特に、小さなエルフはウルラートの服の裾をつかんだままそばにいた。
「ウルラート様、聞こえてますか?」
 ピスティの呼びかけにも全然動かないウルラート。それをフィリテは静かに見つめる。
「ウル」
 2つの優しい声、優しい手。ウルラートの背中を撫でて、励まして、再び立つのを待つ。
 それを、フィリテはどこか冷めた目で見ていた。
「これが今代の勇者か」
 フィリテもまた、今代のコレールとしてルシフェルと契約し、その時に、神魔大戦を見ている。当時の勇者のことも含めて。
「...............普通だな」
 それが、フィリテ・コレールがウルラートに下した認識。
 あまりにも普通。
 仲間に気安く、見ず知らずの相手にもできる範囲で手を貸し、里心を持って故郷に帰って家族と食卓を囲み、そして突然の家族の喪失に打ちひしがれる。
 特別なところなど、何もない。
 ただ、勇者の剣を抜いたという一点だけが、普通ではなかっただけ。
 動けない、動かない、この目の前の男が、勇者。かつて神魔大戦を戦い抜いた勇者の後継。
 少し離れていたフィリテが、ウルラートの傍に立った。
「ウルラート、いつまでそうしている。お前が立たないと、お前の育ての親はいつまでも一人で地面の上に横たわったままだぞ」
 ビクッとウルラートの肩が跳ね、ピスティが信じられないようなものを見る目でフィリテを振り返った。
「なんてこというんですか......!今、ウルラート様は......」
「いいのか、ウルラート」
 ウルラートの視線がゆっくり上がって、フィリテに止まった。
「お前の気持ちは汲む。だが、先にせめて村に連れ帰ってやるべきなんじゃないのか」
 そうだ。探していた。きっと、戦っていると思ったから。だから、背中を探していた。
 倒れている姿など、想像すらしていなかった。
「お前が今動けないのは、お前が思い描いた結果じゃなかったからだろう。悲しいからじゃない。なら、悲しむために迎えに行ってやれ」
 ウルラートの目が泳いで、森の方に向く。
「迎えに......?」
「そうだ。探していたんだろう。もう一度探しに行くだけだ。立て」
 その言葉に釣られるように、ゆっくり立ち上がる。
「ウルラート様......」
 それを押し留めようと手を伸ばしたピスティに、フィリテは制止をかけた。
「酷かもしれんが、こいつは勇者だろう。自力で立ち上がるのを待つ時間はない」
 正論だ。だが、その正論はあまりにも冷たい。
「それは、そうかもしれませんが、でも......」
 立ち上がったウルラートが足を引きずるように一歩ずつ歩き出す。小さなエルフもまた、その歩調に合わせるように寄り添って歩く。
「ピスティ。優しさが常に正しいわけじゃない。今こいつに必要なのは、無理矢理にでも動くことだ。そしてそれを支えるのが、仲間であるお前の役目だろう」
 ピスティの信仰は、ウルラートを救えない。神官は必要とされていない。なら、必要とされているのは。
 ピスティも、唇を噛みながら立ち上がり、ノロノロと歩くウルラートに寄り添う。
「一緒に行きます、ウルラート様」
 ウルラートの歩調に合わせて、小さなエルフとピスティもまた、赤が散る森に向けて進む。
 フィリテはその後ろを、少し距離を空けてついていく。
 歩き出して、ようやくウルラートの耳に村の喧騒が届いた。聞こえる。そうだ、村の住人の手当てをして、村を復興して。
 やることはたくさんある。でも、それをやれる手もまたたくさんある。
 でも、クリアールを迎えに行くことだけは、ウルラートにしか。
「............」
 足が止まりそうになるたびに、小さなエルフが手を引いた。ピスティの手が背中を押した。
 足が止まることなく、森に踏み入る。
 いつもの獣道、前はなかった薙ぎ倒された植物。それを、進みたくないと叫ぶわずかな声を無視して。
 赤、が。
 金色の結界に包まれて、地面に横たわる赤。赤にまみれた、探し人。
「.........親父......」
 小さなエルフの瞳から再び涙がこぼれ、ウルラートから手を離す。ピスティの手がウルラートの背中から離れ、小さなエルフの手を握った。
 金色の結界をウルラートの手がすり抜けた瞬間、光が散るように結界が霧散する。
 ウルラートの手が、クリアールの胸に触れた。
シェア
前の話 →
47.大好きだった絵本
← 次の話
49.クソ親父
殴る勇者と斬る魔王作者:輝波斗
目次を見る
コメント0件
ログインしてコメントする
まだコメントがありません
ホーム›殴る勇者と斬る魔王›48.迎えに

48.迎えに

 物影で座り込んで動けないウルラートと、それを見つめる3人。特に、小さなエルフはウルラートの服の裾をつかんだままそばにいた。
「ウルラート様、聞こえてますか?」
 ピスティの呼びかけにも全然動かないウルラート。それをフィリテは静かに見つめる。
「ウル」
 2つの優しい声、優しい手。ウルラートの背中を撫でて、励まして、再び立つのを待つ。
 それを、フィリテはどこか冷めた目で見ていた。
「これが今代の勇者か」
 フィリテもまた、今代のコレールとしてルシフェルと契約し、その時に、神魔大戦を見ている。当時の勇者のことも含めて。
「...............普通だな」
 それが、フィリテ・コレールがウルラートに下した認識。
 あまりにも普通。
 仲間に気安く、見ず知らずの相手にもできる範囲で手を貸し、里心を持って故郷に帰って家族と食卓を囲み、そして突然の家族の喪失に打ちひしがれる。
 特別なところなど、何もない。
 ただ、勇者の剣を抜いたという一点だけが、普通ではなかっただけ。
 動けない、動かない、この目の前の男が、勇者。かつて神魔大戦を戦い抜いた勇者の後継。
 少し離れていたフィリテが、ウルラートの傍に立った。
「ウルラート、いつまでそうしている。お前が立たないと、お前の育ての親はいつまでも一人で地面の上に横たわったままだぞ」
 ビクッとウルラートの肩が跳ね、ピスティが信じられないようなものを見る目でフィリテを振り返った。
「なんてこというんですか......!今、ウルラート様は......」
「いいのか、ウルラート」
 ウルラートの視線がゆっくり上がって、フィリテに止まった。
「お前の気持ちは汲む。だが、先にせめて村に連れ帰ってやるべきなんじゃないのか」
 そうだ。探していた。きっと、戦っていると思ったから。だから、背中を探していた。
 倒れている姿など、想像すらしていなかった。
「お前が今動けないのは、お前が思い描いた結果じゃなかったからだろう。悲しいからじゃない。なら、悲しむために迎えに行ってやれ」
 ウルラートの目が泳いで、森の方に向く。
「迎えに......?」
「そうだ。探していたんだろう。もう一度探しに行くだけだ。立て」
 その言葉に釣られるように、ゆっくり立ち上がる。
「ウルラート様......」
 それを押し留めようと手を伸ばしたピスティに、フィリテは制止をかけた。
「酷かもしれんが、こいつは勇者だろう。自力で立ち上がるのを待つ時間はない」
 正論だ。だが、その正論はあまりにも冷たい。
「それは、そうかもしれませんが、でも......」
 立ち上がったウルラートが足を引きずるように一歩ずつ歩き出す。小さなエルフもまた、その歩調に合わせるように寄り添って歩く。
「ピスティ。優しさが常に正しいわけじゃない。今こいつに必要なのは、無理矢理にでも動くことだ。そしてそれを支えるのが、仲間であるお前の役目だろう」
 ピスティの信仰は、ウルラートを救えない。神官は必要とされていない。なら、必要とされているのは。
 ピスティも、唇を噛みながら立ち上がり、ノロノロと歩くウルラートに寄り添う。
「一緒に行きます、ウルラート様」
 ウルラートの歩調に合わせて、小さなエルフとピスティもまた、赤が散る森に向けて進む。
 フィリテはその後ろを、少し距離を空けてついていく。
 歩き出して、ようやくウルラートの耳に村の喧騒が届いた。聞こえる。そうだ、村の住人の手当てをして、村を復興して。
 やることはたくさんある。でも、それをやれる手もまたたくさんある。
 でも、クリアールを迎えに行くことだけは、ウルラートにしか。
「............」
 足が止まりそうになるたびに、小さなエルフが手を引いた。ピスティの手が背中を押した。
 足が止まることなく、森に踏み入る。
 いつもの獣道、前はなかった薙ぎ倒された植物。それを、進みたくないと叫ぶわずかな声を無視して。
 赤、が。
 金色の結界に包まれて、地面に横たわる赤。赤にまみれた、探し人。
「.........親父......」
 小さなエルフの瞳から再び涙がこぼれ、ウルラートから手を離す。ピスティの手がウルラートの背中から離れ、小さなエルフの手を握った。
 金色の結界をウルラートの手がすり抜けた瞬間、光が散るように結界が霧散する。
 ウルラートの手が、クリアールの胸に触れた。
シェア
次の話49.クソ親父
殴る勇者と斬る魔王作者:輝波斗
目次
コメント0件
ログインしてコメントする
まだコメントがありません