敵は鎧を着用している [クーデターII]
013
「うわっ!!!!」
床に転がっていた三人の少女は、戦闘中の兵士たちの間を縫うように走り出した......
「もう!! なんでこんな目に遭わないといけないのよ!! 全部ヒメコのせいよ!!」
「私のせいにしないでよ......最初にじじいをのしておかなかったあなたが悪いんでしょ......」
「喧嘩してる場合じゃないでしょ!! まずお互いの縄を解いて!!」
両陣営の兵士たちが激しく戦い合っていた......それとは対照的に、三人の少女はもがきながら必死に縄を解こうとしていた......
上の階で......
「死ね!!!!」
ヘレン王子が剣を抜いて私に立ち向かってきた......速度強化の魔法を使っていても......彼のスピードについていけなかった......
王子が剣を振り下ろした......私は銃で受け止めた......
「ちっ!」
そのまま剣をひねって私の体勢を崩した......そして一気に突進してきた。
私は四発撃った......彼は魔法弾を剣で弾き飛ばした......
「!!!!」
頭を狙って剣を振り下ろしてきた......しかし間一髪、頭を地面に下げることで躱せた......
毎日職場の上司にお辞儀をし続けたオフィス生活が、まさか剣の攻撃を避けるスキルになるとは思っていなかった......
「よく躱せるじゃないか......このふしだら女め!!!」
「一言でふしだら、二言で淫売か......人の話を鵜呑みにする人間ほど愚かなものはないわよ......」
私はまた王子に向けて発砲した......今度も弾き飛ばされた。しかし今回の弾は少し違っていた......
「ブーム.........」
ドン! 私が撃ち出した弾が王子の頭の横で爆発した......彼は倒れ込んだ......
「うああああ!!!!!」
爆発の衝撃で顔中に炎が燃え広がった......地面を転がって苦しむ姿は、哀れとしか言いようがなかった......
「悪いけど......これは魔法弾なのよ......」
私は前に走った。国王を仕留める前に逃げられてしまわないうちに......しかし......
王子が私の足を掴んだ。私は転んだ......
「......お前が......わしを踏み越えて......父上を......殺しに行くなど......させるものか......」
今や王子の顔は火傷の跡で覆われていた......私は銃を抜いて彼を仕留めようとした......
しかし彼は銃を掴み、すぐに投げ飛ばした......
「もう!......」
もう一丁の銃を抜いて発砲した......王子はかわして銃をまた叩き落とした......
「武器がなくなったな......」
王子は自分の魔法を発動させた......
それは私が先ほど兵士たちにかけたのと同じ、体術強化の魔法だった......
しかし彼のそれは、私のものよりはるかに精巧に使いこなされていた......
「この手で殺させてもらおう......」
「そうはいかないわ......」
私は手から炎魔法を放った......逃亡のときに使ったあの魔法だ。
それによって私と王子は......言いようのない速さで王宮の廊下を滑っていった。
「うああああ!!!!!!!!!!!!」
王子はしっかりと私を掴んで離さなかった......
「放してよ......痛い目に遭うだけよ......」
私が痛くないのは、背中に透明な盾の魔法を張っていたからだ......
「嫌だ!!! お前を殺すまでは絶対に!!!」
「もうやだ......何なのこの状況......」
私は上を見た......そして王子の腕を蹴り続け、ようやく放してもらえた......
彼は炎魔法の勢いのまま転がり続け、柱にも扉にもテーブルにもぶつかり、辺り一帯がめちゃくちゃになった......
「痛っ......」
その光景を見た私は、クロエの代わりに最大限にスカッとした......さて......今度はあいつの隠れ場所に......
えっ......ちょっと待って......
どうやって止まったのか......
「やばいいいいいい!!!!!」
魔法の方向を逆に向けた......しかし止まれなかった......そのまま壁に全力で激突した......
ドン!!!!
壁に思いっきり激突した衝撃で壁が砕けた......私はそのまま落下していった......
しかし運良く、二階の床の端を掴んだ......そのまま這い上がった......
目の前の部屋は......
「国王の私蔵庫......」
すぐに扉を開けた。仕留めようと思って......
しかしもう間に合わなかった......
部屋の隅で......マルガムが頭を完全に潰された状態で倒れていた......
そして私の目の前では......
キキキ......カキカキ......キン......
「しばらく履いていなかったから...ちょっときつそう...」
金属が組み合わさる音が鳴り響いた......鎧好きかアイアンマンのファンが見たら、喜びで絶叫するに違いなかった......
しかし私は違った......
漆黒の鎧がロボットと見紛うほどの大きさで、少しずつ......少しずつ組み合わさっていく......
それはどうやら彼自身の鎧のようだった......
腕のパーツが......
脚のパーツが......
胴体が......
首が......
顔が......
そしてカシャン!! フェイスガードが閉じた......
意味はひとつしかない......
戦闘準備完了、だ。
キキキ......キキキ......キキキ......
子どものころにアイアンマンでアイアンモンガーというヴィランを見たときのあの感覚にそっくりだった......
「でも...着続けていれば、そのうち慣れるよ。」
私は部屋から後退しようとした......しかし横から......ヘレン王子がゆっくりとこちらへ歩いてきた。
挟まれた......
「ふん......今度はわしの番だな......」
王子が突進してきた......しかし私は盾魔法で自分を覆った......
しかし......
「?」
ヘレン王子の背後に次元の扉が開いた......
「リオ......お前たちか!?」
その名前は......もしかして......逃げ出した宮廷魔法使いたちか......
「吹き飛んでちょうだい......」
次元の扉から顔を出した女性の魔法使いが巨大な火球を放ち、その廊下に大爆発が起きた......
「ぐっ!!!」
「どこを見ているんですか!!!!」
鎧姿の国王が巨大な鉄の腕を振り上げ......
全力で私に打ちつけた......
「やった!! さあ......早く鉄の馬のところへ走りましょう......」
縛り上げから解放された三人の盗賊少女たちは逃げ出す準備をしていた......
しかし......
ドン!!!!
右側の壁から大きな音がした......マベルはその音を聞いてすぐに様子を見に走った......
「マベル!! 何してるの!! もう逃げなきゃいけないのに!!」
「だって今、誰かが壁にぶつかった音がしたんだもの......」
「この状況で!? 誰が壁に突進するのよ!!」
リボンはマベルが走っていった方向をちらりと見た......壁が崩れて穴が開いていた。
「うわっ!!」
そしてその穴の縁に......クロエがしがみついていた。落ちそうになっている......
「クロエじゃない!! クロエ!!!!」
三人は落ちてしまわないかと心配して呼びかけた......しかし幸い、彼女は何とか上に登ることができた......
「大丈夫そう......」
三人が顔を見合わせた......そして何かに気づいた......
「クロエを助けなきゃ......」
そう言うと同時に王宮へと走り戻った......しかしそのとき、大きな衝撃音が響いて王宮の二階の一部が崩れた......
「きゃあああ!!!!」
「クロエ!!!」
三人はクロエを呼び続けた......そしてしばらくすると......
ドドォォォォォン!!!!!
また誰かが王宮の壁に激突した......その人物は下に落ちていった......
それはクロエだった......
「早く!!!!」
三人は急いで走り、王宮の二階から落ちてきたクロエの体を受け止めようとした......
「腕を組んで!!! よく狙って......行くわよ!!!!」
ドスン......
クロエの体は三人の腕の上に無事着地した......
「クロエ!!! 大丈夫......」
言い終わらないうちに......ズン......ズン......ズンという一定のリズムで音が鳴り始めた......
まるで人が歩くような音だった......
クロエが指を差した......王宮の一階の方向へ......その音と合わせて三人はクロエを連れてその指差す先へ向かった......
王宮の一階に入ると......巨大な影が二階から突き出るようにして下を覗き込んでいた......数秒間、こちらを見た......
そして戻っていった......
「今のは......何......」
ウィン......緑色の光がクロエの全身を包んだ......傷だらけの体が元の状態に戻っていった......
「みんな無事?......」
クロエはすぐに三人に聞いた......誰も怪我していないとわかると、すぐに立ち上がった......
「早く逃げて......今、国王がゼングラフの魔法で鎧を強化してる......私が止めに行かないと......」
言い終えるとクロエはすぐに謁見の間へと走り出した......
リボンが残りのみんなに向いて聞いた......
「逃げる? それとも友だちを助ける?」
「当然でしょ......」
マベルとヒメコは顔を見合わせて頷いた......言葉にしなくても、何をすべきかはわかっていた......
友だちを助けるに決まってる!!!!
謁見の間で......
ドドォォォン!!!! 謁見の間の天井が崩れ落ちた......すべてのものが一斉に崩れ落ちてきた。
謁見の間で戦っていた兵士たちも崩れてきた天井の破片を食らった......
「はあ?......」
数十人の相手を死なせずに倒してきたルイスは......天井から降ってきた黒い影と見つめ合っていた......
キキキ......カキカキ......
金属同士が擦れ合う音に、戦い合っていた全員が振り返り、その光景を凝視した......
「兵士......」
鎧から声が響き渡った......国王直属の兵士たちはその声を聞いて、すぐに命令を受け取る体制を取った......
「残りはわしが片付ける......」
「おおっ!!!!!!!」
宣言が終わると同時に、ルイス側の兵士二人が国王に向かって攻撃を仕掛けに走った......
「止まれ!!!!!!」
ルイスが止めようとしたが、もう遅かった......
「ふん......」
国王は巨大な手で......二人の兵士の体を掴み......そのまま握り潰した......
「.....................」
ルイスはその光景に言葉を失った......国王の「本当の姿」を、この目で初めてはっきりと見た瞬間だった。
「ふん......わしに敵う者はいない......覚悟しろ......謀反人どもよ......」
鉄の腕を振り上げ、ルイス側の別の兵士を殺そうとした......
「危ない!!!!」
彼はすぐに走り出し、その攻撃を自分で受け止めた......
「早く逃げろ!!! うっ!!!!!」
そこへクロエが扉を開けて飛び込んできた......
「旦那様!!! うわっ!!!」
吹き飛ばされたルイスがクロエに激突して、二人は壁まで転がって倒れ込んだ......
「.....................」
「さあ......お前たちをまとめて処刑してやろう......」
街の中で......
兵士たちが同士討ちをしていた。屋根の上でそれを観察していたウィリアムは首を傾げた。
これはどういうことだ......
最初に図書室で騒ぎがあった。あの老魔法使いの弟子らしき者がマントで顔を隠していたが倒れていた。顔を隠す魔法もかけていたようだった......
そしてヒメコたちの姿も消えていた。あの老魔法使いも......
追跡魔法を使うと......すぐに王宮に連れて行かれたとわかった......
しかし今、兵士たちが互いに戦い合っていた......
しかも一部の兵士は強化魔法をかけられていた......
「王宮に行くしかないな......」
ウィリアムは屋根から降りた。そこには待っている人物がいた......
「私が手伝います......」
それは池田だった......
「もう街の外に逃げたかと思っていたが......」
「今はしばらく兵士たちが私を追う手が止まっています......クーデターが終わるまで、それほど時間はないでしょう......」
「クーデターだと?......」
戦い合う兵士たちの姿が頭に浮かんだ......すぐに話の繋がりがわかった......
「そうです......メグミ姫が、五百年間も君臨してきた国王に個人的な恨みを持つ人々を集め、クーデターを起こしているんです......」
「......他に何か知っているか?」
「はい......先ほどある家族に話した情報がありまして......閣下にも知っておいていただいた方がいいかと......」
「何だ?」
池田は口を開いた......あの少年の家族に話したことを......
この件に関して...ケイシーの腹の子が、あのとき流れずに生きていたこと......
この件に関して...その娘が、遺体を焼くよう命じられた葬儀師の家族に育てられ、盗賊の巣で暮らすようになったこと......そしてその子どもは成長し、ウィリアムと同じ魔法の才能を持つ孫娘、クロエを生んだこと......
この件に関して...十九年前......ヘンリー国王が「年若い」王女三人を誘拐し、性の奴隷として監禁していたこと......
この件に関して...その三人の王女は......レギュラーと敵対するロジア王国、シャム王国、そしてジェポンネ帝国の出身だったこと。これがきっかけで対立が続いていたが、どうすることもできなかったこと......
この件に関して...その三人の王女が同時に身ごもり......生まれた三人の子が......ウィリアムが義娘のように見ていた三人の盗賊少女、リボン・ボロヤヌビッチ、マベル・チョンティチャ――――、不知火 ヒメコであること......
この件に関して...その三人は国王の命で殺されるはずだったが......第一位宮廷魔法使いの父とその息子エンジンが、三人が生き残れば王国に明るい未来が訪れるという予知夢を見た。そのため彼らは盗賊の隠れ家に送られ、魔法攻撃やエンジンの父親の魔法による殺害から守られた。
この件に関して...国王は三人の王女たちを口封じのために殺したこと......王妃もその事実を知り、深く悲しんだこと......しかしジェポンネの王女、ツボミ姫だけはヒメコの妹となる女の子を産んだこと......その子は女神の祝福として生まれ、そしてその少女はまるで女神からの祝福のようで、女王にすべてを明らかにした。そこで女王はその子に...恵姫と名付けた。
ウィリアムはその場に崩れ落ちた......妻を殺した男の、おぞましい所業を聞かされて......
吐き出しそうになったが......こらえた......
「だからこそ......その全員の分の怒りを、あなたに晴らしてもらえませんか......」
ウィリアムは何も答えなかった......大通りへと歩き出した。そこには小さな鉄の馬......池田のクラシックなバイクが停めてあった......
「三十秒でこの鉄の馬の乗り方を教えてくれないか......」
「了解です......騎士殿......」
ブロロロロロ......
エンジン音がだんだん大きくなってきた......大きく......大きく......
いや......今まで聞いてきた音とは違う。
「何だ、あれは......」
戦い合っていた兵士たちが手を止め、音の出所を振り返った......
そのものがゆっくりと近づいてきた......
外で戦っていたグラハムはこの瞬間を見て、叫んだ。「全員!!!」
「全員!!!! 盾を構えろ!!!」
人間は呆然としているとき、何かの言葉で刺激されると素直に従いやすくなる......
兵士たちは全員盾を手に取って構え、身を低くした......
まるで巨大な木の壁ができあがったようだった。
それを見たウィリアムはバイクの速度をさらに上げた......
そして後輪にブレーキをかけた。急ブレーキで後輪が跳ね上がり......ウィリアムの体が盾の壁の方へと吹き飛んだ。
彼は脚を伸ばして跳躍の体勢を取り......足が盾に触れた瞬間、跳躍魔法を発動させた。そのまま王宮の中へと飛び込んでいった......
正気を取り戻した兵士たちは立ち上がり、その光景をぽかんと眺めた......
そしてまた剣を手に取り、戦いを続けた......