プロローグ 3: 奇術師のプレミア
◆◇◆
夕暮れ時になると......子どもたちはみんな急いで家へ帰るのが決まりだった......
しかし今夜は......子どもたちが皆してその決まりを破っていた。遠い地からやってきた手品師の大きな公演があると聞いていたからだ......
ジェポンネ王国の夕刻......街のあちこちに、来たる公演の告知が貼り出されていた......
告知の紙にはこう書いてあった。奥山五郎、遠方より訪れし奇術師による胸躍る公演......
しかしその告知の隣には......誰もが知っているもう一枚の紙が貼られていた......
お上からの公告で......白みがかった短髪に、狡猾そうでありながら妙に色気のある顔をした、見慣れない服装の若い男の絵が描かれていた......
名前は他でもない......奥山五郎。当局に幾度となく騒動を起こしてきた人物だった......
江戸の街はいつもより活気づいていた。衛兵たちも見回りを増やし始めていた......
奥山五郎が江戸の民に愛されている理由がもう一つあった......
それは彼の公演の形式にあった......
エミリたんが舞台に立って歌うアイドルだとすれば......五郎は江戸中のあらゆる場所を舞台にした......
「江戸、大坂、そして京の御人衆よ、こんばんは......拙者の名前は奥山五郎でございますな......」
低く落ち着いていながら、周囲の人々をからかうような独特の声が響いた......
その話し方と声の調子は、まるで紙芝居師か落語家のようだった。
「おっ!! あそこにいる、あいつだ!」
一人の少年が商店街の屋根の上を指差した。それを聞いた人々が皆、同じ方向に目を向けた......
「おやおや......今日は随分と賑わっておりますな......では、最初の演目を始めましょうかな......」
ぶわっ......
突然、五郎の袖口から厚紙が大量に飛び出した。厚紙たちは商店街の一帯に舞い散った......
しかし......
それらの厚紙はやがて集まり、大きな鳥の形に変わって空を舞い始めた......
「おおっ!!!」
これが手品なのか魔法なのか......実際のところ、この世界の人々は魔法を持たなくても、魔法の働きを感じ取ることができた。
魔法の痕跡を消す術を使えば隠せることもあるが、それでも感知されることがある......
やがて大きな鳥は小さな欠片に散った......厚紙はいつの間にか、銀色に光る小さな金属へと変わっていた......
それは銀貨だった......
「お金だ!!」
銀貨の雨が降り始めると、当然ながら騒ぎを起こした罪に問えそうなので衛兵たちが五郎のいる場所へと急いだ。
しかし彼はもうそこにいなかった......
「江戸、大坂、京の御人衆よ!!」
声は空の上から聞こえた。いつの間に移動して、いつ着替えたのかもわからなかった......
五郎は和傘を一本広げて空からゆっくりと降りてきた。そして足を組んで座るような格好で宙に浮いていた......
「拙者が聞くところによれば、今は経済が回復しているとのことでありますが......もしや回復が少々遅すぎるのではないかと心配しておりましてな?......だからこそ! 拙者の手品で、価値のない厚紙をたいそう立派な銀貨に変えて、皆様にお先に使っていただこうと思いまして......」
どこか飄々として、世間の緊張感をまるで意に介していないような口ぶりだった......
トン......
足が地面に着いた瞬間、衛兵たちが日本刀や長銃を手に取って構えた。
「えっと......少し待っていただけませぬか?......拙者、最初の演目を終えたばかりでして......」
「観念しろ、奥山五郎......」
「おやまあ......乗ってくれませぬか......では、その前にまず......皆さん、武器を下ろしてもらえますかな?」
パチン! 五郎が指を鳴らした。すると衛兵たちの武器がいつの間にか蛇に変わっていた......
「わあっ!!!!」
衛兵たちはすぐに武器を手放した。周りの住民たちが大笑いし始めた......
「あらあら......蛇が苦手だとは存じませんで......ではこうしましょう......」
五郎は大きな蛇を掴んで首に巻きつけた。それから左手を包丁に見立て、ゆっくりと蛇の体へと振り下ろした......
その蛇はいつの間にか「蛇の形をしたケーキ」になっていた......
「おっと......!」
五郎は素早く手を握り、また開いた。すると平らな皿が手のひらの上に現れた......
「これはこれは皆さん......ケーキは美味ですぞ。ジェポンネでは滅多にお目にかかれない代物で、西の方まで行かないとなかなか食べられませんからな......」
「うわあ......」
差し出されたにもかかわらず、衛兵たちは揃ってその場でひどく気分が悪そうにしていた......
「少し食べてみませぬか?」
五郎は最初に自分を見つけた少年にケーキを差し出した。何も知らない少年はそのまま素直に食べた......
「どうですか?」
「鶏肉みたいな味がする......」
五郎が頷いた。それからそこら中にいた蛇たちを全部まとめて肩にかけ、パチンと指を鳴らした......
蛇たちが本物のチョコレートケーキに変わった。
この世界の東方では、そういった菓子は非常に珍しいものだった......
しかしこの手品師、五郎は、それをある子どもに食べさせてみせた......
「甘い......」
そう言うと女の子たちが一斉に駆け寄ってきた......
「美味しい!!」
それを聞いた人々が群がり始めた......五郎はそれを見て手で押しとどめた。
「おっとっとっと......ご安心を......全員分ありますよ......」
彼は皿のふちをつかんだ。そして引っ張り出すと......ケーキが二つになった。その光景を見た商店街の人々は言葉を失った。まるで分身術のように見えたからだ......
女の子の一人がそのもう一つのケーキを食べてみた......
「美味しい!!!!!」
「さあ皆さん! ケーキが欲しい方は皿のふちを引っ張ってみてください......」
言われた通りにすると......ケーキは本当に分かれた。しかも味も同じだった......
五郎は気分が悪そうにしている衛兵たちのところへ歩み寄り、近くの井戸から水を汲んで持ってきた......
「ありがとう!!」
衛兵たちはすぐに水を飲んだ......五郎が手を叩いた......
「うっ......うぐっ!......」
衛兵たちはまたひどくなってきた......五郎はかわいそうに思って、強く背中を叩いてあげた......
しかし出てきたのは汚いものではなかった。
「あっ! あれは......」
衛兵たちの口から出てきたのは......十数羽の鳩だった......
そうなってしまえばもう身動きもとれない......五郎を捕まえようとする気力もなくなってしまった......
「お前の勝ちだよ、五郎......お前の勝ちだ......うぐっ......あわわ......」
「ケーキも食べてくださいよ......」
そのとき、数十人の足音が商店街に入ってくるのが聞こえた。五郎はすぐに屋根の上へ飛び上がった......
「おっと、大変だ......皆さん、拙者はこの辺でお暇いたします......どうかお達者で......またいつかここで公演いたしますな......」
「こら!! 今すぐ降りてこい、五郎!!」
「さらばじゃ〜〜〜〜〜〜!!!」
そして彼は闇の中に消えた......商店街に残ったのは、江戸の民の喜びの声だけだった......