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図書の国1

 その国は、誰でも受け入れてくれる場所だった。ただし、金銭的に余裕のある者だけに限られる。門番は通行許可証を要求しないし、城よりも巨大な図書館にも無料で入ることができる。ただ、宿代がとんでもなく高額なのだ。
 アヴリルが律儀に代金を支払っていては、いつか痛い目を見る――そう言っていた意味をようやく理解することができた。

「おひとり様、一泊七十万オンスですが......旅の方が払えます?」

 図書館に併設している宿屋のオーナーが、黄緑の瞳を嫌らしく細める。七十万オンスなんて、私たちの故郷で二ヶ月は生活できるような金額だ。逆に言えば、十分な貯蓄がなかった私たちには払えるような金額ではない。
 それでもノエルは財布を確かめ、紙幣を数える。その隣でアヴリルは口をへの字に曲げた。

「ノエル、本気で払う気?」

「いや、払えない......」

「だったら、オフィーリアの出番じゃん」

 アヴリルは後ろで控えていた私の元へとやって来て、私の手首を掴む。そのまま引っ張りカウンターに近付くと、オーナーに私の左手を掲げてみせる。

「これでも泊まらせないって言うつもり?」

「せ、聖女様......!?」

 急にあたふたし始めたオーナーに、アヴリルは畳みかける。

「この宿を焼き払ってもいいんだよ?」

「そ、それだけは......! 火の元が割れれば死罪に......!」

「じゃあ、泊めてくれるよね?」

 アヴリルが口角を上げると、オーナーは首をもたげた。

「......三〇八号室をお使いください」

 落ち込んだ雰囲気を醸し出し、オーナーは一つの鍵を用意してくれた。ところが、リックスは眉間にしわを寄せる。

「野郎とレディが同室?」

「こちらにも運営がありますから......」

「リックス、これ以上、無理は言えないよ」

 なんとかリックスの片手を引き、気を引いてみる。何とか納得してくれたのか、リックスもようやく頷いてくれた。
 ノエルが鍵を受け取り、四人でオーナーに背を向ける。すると、「貧乏人の癖に......」と小言が聞こえたのだ。アヴリルが振り返り、オーナーに睨みを利かせる。一触即発になるかと思いきや、オーナーは苦笑いをするだけに留まった。アヴリルの目が鋭くなったものの、先頭を切って歩き出したので私たちもそれに続く。ノエルはアヴリルの横に、リックスは私の横に、それが私たちの定位置となっていた。
 赤いカーペットに白い壁、焦げ茶の調度品に豪華なシャンデリア――私が立ち入ったことのない、豪華な宿だ。
 階段を上り、三階へと入る。廊下が一段と広くなったように感じられた。

「私たち、場違いじゃない?」

「聖女がそんなことを言ってどうするの!」

 アヴリルは私を肯定しようとしてくれたのだろうか。ノエルの横で笑いながら、こちらに振り返る。ノエルとリックスもアヴリルの言葉を否定しようとはしなかった。
 三〇八号室のドアプレートが見え、ノエルがその鍵穴に鍵を挿し入れて回す。小気味のいい音が鳴ったので、躊躇いもせずにドアを開ける。
 そこにあったのは、まるで小さな城のような豪華な部屋だった。四人では大きすぎる広さに、セミダブルのベッドも四つ用意されている。布団には金の装飾も施されており、調度品は廊下のものと同じ焦げ茶色だ。シャンデリアまでもがついている。無料で泊まらせてもらって、これで文句は言えないだろう。

「......悪いことを言っちゃったかな」

 リックスは荷物を置きながら、苦笑いをする。

「こんな豪華な部屋だとは思わなかったからな。ま、しょうがないだろう」

「そうだよ。聖女を泊まらせるんだもん。これくらいしてもらわないとね」

 ノエルもアヴリルも待遇のよさを褒めているのに、どこか視点が違う。それも二人らしいか、と小さく笑ってしまった。
 今一度、部屋を存分に眺める。この煌めく世界で寝つけるのだろうか、と不安を覚えつつも、次の行動へ移ろう。

「荷物も置いたし、図書館に行こっか」

「そうだな」

 四人で頷き合い、再び廊下へと出た。

 図書館のゲートをくぐると、まず見えてきたのはうず高く積まれた本棚だった。私たちの身長の四倍はあるだろうか。それが二階、三階と続いている。世界中の本を集めていると聞いたから、このどこかに私たちが追い求めている答えが眠っているはずだ。

「って、この本棚からどうやって本を探すの?」

 足よりも声が先に出ていた。アヴリルは両手に腰を当て、無尽蔵に広がる本棚を見遣る。

「どっかにカウンターがあるはずなんだけどなぁ。あれかな?」

 アヴリルが指さした方には、僅かな空間と小さな人だかりができていた。

「とりあえず、行ってみよー!」

「おー!」

 アヴリルの掛け声に、リックスが答える。最初は犬猿の仲なのではないかと思っていた二人だったけれど、意外と息は合うらしい。
 人だかりを抜け、カウンターに辿り着いた。それはいいのだけれど、またしても問題が発生した。案内に『図書の検索、一回一万オンス』と書かれているのだ。
 ここでも金銭が発生するのか。開かれているようで、全く開かれていない図書館だ。アヴリルはまたしても私の片手首を掴み、司書の元へと悠々と歩く。
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心の剣を貴方に作者:七宮叶歌
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図書の国1

 その国は、誰でも受け入れてくれる場所だった。ただし、金銭的に余裕のある者だけに限られる。門番は通行許可証を要求しないし、城よりも巨大な図書館にも無料で入ることができる。ただ、宿代がとんでもなく高額なのだ。
 アヴリルが律儀に代金を支払っていては、いつか痛い目を見る――そう言っていた意味をようやく理解することができた。

「おひとり様、一泊七十万オンスですが......旅の方が払えます?」

 図書館に併設している宿屋のオーナーが、黄緑の瞳を嫌らしく細める。七十万オンスなんて、私たちの故郷で二ヶ月は生活できるような金額だ。逆に言えば、十分な貯蓄がなかった私たちには払えるような金額ではない。
 それでもノエルは財布を確かめ、紙幣を数える。その隣でアヴリルは口をへの字に曲げた。

「ノエル、本気で払う気?」

「いや、払えない......」

「だったら、オフィーリアの出番じゃん」

 アヴリルは後ろで控えていた私の元へとやって来て、私の手首を掴む。そのまま引っ張りカウンターに近付くと、オーナーに私の左手を掲げてみせる。

「これでも泊まらせないって言うつもり?」

「せ、聖女様......!?」

 急にあたふたし始めたオーナーに、アヴリルは畳みかける。

「この宿を焼き払ってもいいんだよ?」

「そ、それだけは......! 火の元が割れれば死罪に......!」

「じゃあ、泊めてくれるよね?」

 アヴリルが口角を上げると、オーナーは首をもたげた。

「......三〇八号室をお使いください」

 落ち込んだ雰囲気を醸し出し、オーナーは一つの鍵を用意してくれた。ところが、リックスは眉間にしわを寄せる。

「野郎とレディが同室?」

「こちらにも運営がありますから......」

「リックス、これ以上、無理は言えないよ」

 なんとかリックスの片手を引き、気を引いてみる。何とか納得してくれたのか、リックスもようやく頷いてくれた。
 ノエルが鍵を受け取り、四人でオーナーに背を向ける。すると、「貧乏人の癖に......」と小言が聞こえたのだ。アヴリルが振り返り、オーナーに睨みを利かせる。一触即発になるかと思いきや、オーナーは苦笑いをするだけに留まった。アヴリルの目が鋭くなったものの、先頭を切って歩き出したので私たちもそれに続く。ノエルはアヴリルの横に、リックスは私の横に、それが私たちの定位置となっていた。
 赤いカーペットに白い壁、焦げ茶の調度品に豪華なシャンデリア――私が立ち入ったことのない、豪華な宿だ。
 階段を上り、三階へと入る。廊下が一段と広くなったように感じられた。

「私たち、場違いじゃない?」

「聖女がそんなことを言ってどうするの!」

 アヴリルは私を肯定しようとしてくれたのだろうか。ノエルの横で笑いながら、こちらに振り返る。ノエルとリックスもアヴリルの言葉を否定しようとはしなかった。
 三〇八号室のドアプレートが見え、ノエルがその鍵穴に鍵を挿し入れて回す。小気味のいい音が鳴ったので、躊躇いもせずにドアを開ける。
 そこにあったのは、まるで小さな城のような豪華な部屋だった。四人では大きすぎる広さに、セミダブルのベッドも四つ用意されている。布団には金の装飾も施されており、調度品は廊下のものと同じ焦げ茶色だ。シャンデリアまでもがついている。無料で泊まらせてもらって、これで文句は言えないだろう。

「......悪いことを言っちゃったかな」

 リックスは荷物を置きながら、苦笑いをする。

「こんな豪華な部屋だとは思わなかったからな。ま、しょうがないだろう」

「そうだよ。聖女を泊まらせるんだもん。これくらいしてもらわないとね」

 ノエルもアヴリルも待遇のよさを褒めているのに、どこか視点が違う。それも二人らしいか、と小さく笑ってしまった。
 今一度、部屋を存分に眺める。この煌めく世界で寝つけるのだろうか、と不安を覚えつつも、次の行動へ移ろう。

「荷物も置いたし、図書館に行こっか」

「そうだな」

 四人で頷き合い、再び廊下へと出た。

 図書館のゲートをくぐると、まず見えてきたのはうず高く積まれた本棚だった。私たちの身長の四倍はあるだろうか。それが二階、三階と続いている。世界中の本を集めていると聞いたから、このどこかに私たちが追い求めている答えが眠っているはずだ。

「って、この本棚からどうやって本を探すの?」

 足よりも声が先に出ていた。アヴリルは両手に腰を当て、無尽蔵に広がる本棚を見遣る。

「どっかにカウンターがあるはずなんだけどなぁ。あれかな?」

 アヴリルが指さした方には、僅かな空間と小さな人だかりができていた。

「とりあえず、行ってみよー!」

「おー!」

 アヴリルの掛け声に、リックスが答える。最初は犬猿の仲なのではないかと思っていた二人だったけれど、意外と息は合うらしい。
 人だかりを抜け、カウンターに辿り着いた。それはいいのだけれど、またしても問題が発生した。案内に『図書の検索、一回一万オンス』と書かれているのだ。
 ここでも金銭が発生するのか。開かれているようで、全く開かれていない図書館だ。アヴリルはまたしても私の片手首を掴み、司書の元へと悠々と歩く。
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心の剣を貴方に作者:七宮叶歌
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