ホーム›転生先は隠世!?〜属性過多の妖怪達に愛され過ぎて、念願のスローライフは享年1日で終了しました〜›第5章 深まる関係編 - 第5話「混沌《カオス》漁業」
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第5章 深まる関係編 - 第5話「混沌《カオス》漁業」


東あづまの顔から、それまで浮かんでいた無邪気な笑みが消えた。

『誰にでも同じこと言うんじゃないの!?』

美月にとっては、照れ隠しも混じった一言だった。

―――だが。

「誰にでも言うわけねぇだろ!!」

怒号が飛んだ。

「ひ...っ...!?」

美月の肩が跳ねる。

少し離れた場所で機を窺っていたジャジーと鳳ほうも、動きを止めた。

東あづまは明確に怒っている。

けれど、その怒りは美月へ牙を剥くものではなかった。

「海のもんは死ぬほどまっすぐだ!」

東あづまは美月を抱えたまま、真っ直ぐその目を見る。

「自分が決めたやつと添い遂げられねぇなら、自ら死ぬやつも多い!」
「え......」

美月の表情から、さっと笑いが消えた。

それを見た東あづまは、深く息を吐くと、声のトーンを落とす。

「自分が気に入った相手と番つがいになれんだったら、なんだってやる。俺らの求愛は命だってかかってんだ」
「...重い...」

思わず呟いた。

先ほどまで軽快な速度で進んでいた求愛に急に命までが乗り、美月の調子も勢いを無くす。

東あづまは眉を寄せる。

「なぁ。どうしたら俺のもんになんだよ」

その表情は、わずかに苦しげだった。

「......力か?」

東あづまの視線が、美月の向こうへ移った。

その視線を浴びたジャジーと鳳ほうは、戦闘態勢を取る。

「あいつら、倒せばいいのか?」
「なんでそうなるの!?」

美月がぎょっとする。

東あづまから見れば、美月にはまだ契約印がない。
だが、あの二人との間に何かしらの深い繋がりがあることくらいは分かる。

なら、倒せばいい。

この雌を囲っている雄二匹を倒し、自分が奪えばいい。

鳳ほうは昔からの腐れ縁だ。
長い付き合いもある。

それでも今の東あづまの中では、迷う余地すらなかった。

番候補と、昔からの馴染み。

秤てんびんへ載せるまでもなく、前者が重い。

「海洋の王から百獣の王にならないでよ!」

美月が叫ぶ。

「あの二人は私の大切な人なの!」

東あづまに向けて、強く言い切った。

その言葉に、ジャジーと鳳は目を見開いた。

美月は続ける。

「それを傷つける人なら、一生好きになることはないです!」

東あづまは一度瞬いた。

「わかった。ならやらねぇ」
「早っ!?」

迷わない。

先ほどまで殺気混じりの視線を向けていたジャジーと鳳ほうから、すぐに興味を外した。

ジャジーが半眼になる。

「切り替えが怖ぇよ......」
「美月殿の一言だけで止まる点については、まだ救いがあるでござる......」
「それと!」

美月は続ける。

「私は陸で生きたいので」
「なら俺が行く」

また即答。

「............」

美月は少しだけ考え、試すように言った。

「......食事、野菜だらけになるかもよ?」
「俺が魚取ってくる」
「わぁいそこはありがた......って、まだ番にならないからね!?」

魚に釣られかける美月。
“魚を釣る”ではなく“魚に釣られる”など、普通に考えればおかしな話である。

「とりあえずお互いを知る!話はそれから!!」
「......断られたわけじゃねぇんだな?」
「ま、まぁ......そうだけど......」

告白されたジャジーにも、鳳ほうにも返事は保留中。

ならば、この東あづまだけ、今この瞬間に完全拒否する理由もない。

美月がしどろもどろに認めると、東あづまは嬉しそうに牙を見せた。

「わかった。ならお前の返事を待つ」
「......っていうかこれ、私が受け入れる方向に誘導されてる?」
「そんなつもりはねぇぞ?」
「本当...?」

美月は疑わしそうに目を細めた。

そこで、少しだけ気になったことを口にする。

「......ちなみに」
「なんだ?」
「......待った結果、番になれなかったとしたら......?」

東あづまが目を瞬く。

先ほど、自分が選んだ相手と添い遂げられなければ、自ら死ぬ者もいると言った。

なら、美月が最後まで東あづまを選ばなかった時、この男はどうするのか。

少し、怖くなった。

だが―――

「それは俺の努力が足りなかったってことだろ」
「......え......」

あまりにもあっさりしていた。

「俺らは端はなから全力だ」

東あづまは真っ直ぐ言う。

「それで選ばれなかったなら、俺らに足りねぇもんがあったってことだ。そこに文句言うのは海の男じゃねぇ」
「............」

ギュン。

美月の胸の奥で、何かが勢いよく跳ねた。

少し離れたところから、ジャジーが眉を寄せる。

「おい。遠くからでも概念擬音聞こえてきたぞ」
「だってこんなどストレートに気持ち伝えられ続けたら、キュンメーター振り切れるって!!」
「なんだそれ」

東あづまが首を傾げた。

「良いのか?悪ぃのか?」
「......ぃぃ......」

美月が小さく答える。

すると。

「そーか!ならよかった!」

ニカッと、先ほどまでの真剣さが嘘のように、東あづまは大きく笑った。

その単純明快な表情を見て、美月はしばらく黙る。
そして。

「......東あづまって、シベリアンハスキーみたいだね」
「なんだそりゃ」
「犬」
「犬!?」

東あづまの顔が盛大に歪んだ。

「うん。人間界にいる大型の犬で、全力で甘えたり遊んだりするんだけど、力加減が下手なの」
「それは俺自身知ってる」
「知ってるなら抑えてよ!」
「相手が番候補なら無理だ!」
「なんでよ!」

東あづまは当然のように海を指した。

「海は広ぇ」

一瞬だけ、その声に海の男らしい重みが乗る。

「次に会える保証なんかねぇ。気に入ったらその場で捕まえねぇと、他に取られる。本能に迷ってる暇がねぇんだよ!」
「............」

美月は海を見る。

広い。
本当に、とんでもなく広い。

その中でたまたま出会った相手と、次の日も会える保証はない。

―――そう考えると。

「......回転寿司みたい......」

沈黙。

「なんだそりゃ」
「人間界の食事処」

美月は真顔で説明を始めた。

「お米の上に魚の切り身が乗った“寿司”って食べ物が、一定のスピードで流れてくるの」
「魚が陸で流れんのか?」
「そう。流れてきたお寿司を取らないと、次いつ来るか分からないから......似てるなって」

東あづまが少し考える。

そして。

「で、寿司はどっちだ?」
「私だよチクショー!」

美月の叫びが、海岸いっぱいに響いた。

魚を釣るつもりだった美月が、東あづまという海系怪異に釣られた混沌カオス漁業。

そんなやり取りを。

「まためんどくせぇ取り巻きが増えんのかよ......」

ジャジーは眉間に皺を寄せながら聞いていた。

「......」

鳳ほうは少し離れた場所から、黙ったまま見つめていた。

先ほどまで怒りに濁っていた瞳は、すでに元へ戻っている。

けれど。

その表情だけは、ひどく複雑だった。

東あづまの言葉。

『気に入ったらその場で捕まえねぇと、他に取られる』

ジャジーにも、似たことを言われた。

そして、今。

美月は、自分とはまるで違うやり方で真っ直ぐ求める男を前にして、確かに心を動かしている。

鳳ほうは無意識に、自分の口元へ指を触れる。

海から帰ったら、伝えると決めたことがある。

その決意だけは、もう胸の奥へしまわなかった。



第5章 深まる関係編 - 第5話
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転生先は隠世!?〜属性過多の妖怪達に愛され過ぎて、念願のスローライフは享年1日で終了しました〜作者:桜桃
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東あづまの顔から、それまで浮かんでいた無邪気な笑みが消えた。

『誰にでも同じこと言うんじゃないの!?』

美月にとっては、照れ隠しも混じった一言だった。

―――だが。

「誰にでも言うわけねぇだろ!!」

怒号が飛んだ。

「ひ...っ...!?」

美月の肩が跳ねる。

少し離れた場所で機を窺っていたジャジーと鳳ほうも、動きを止めた。

東あづまは明確に怒っている。

けれど、その怒りは美月へ牙を剥くものではなかった。

「海のもんは死ぬほどまっすぐだ!」

東あづまは美月を抱えたまま、真っ直ぐその目を見る。

「自分が決めたやつと添い遂げられねぇなら、自ら死ぬやつも多い!」
「え......」

美月の表情から、さっと笑いが消えた。

それを見た東あづまは、深く息を吐くと、声のトーンを落とす。

「自分が気に入った相手と番つがいになれんだったら、なんだってやる。俺らの求愛は命だってかかってんだ」
「...重い...」

思わず呟いた。

先ほどまで軽快な速度で進んでいた求愛に急に命までが乗り、美月の調子も勢いを無くす。

東あづまは眉を寄せる。

「なぁ。どうしたら俺のもんになんだよ」

その表情は、わずかに苦しげだった。

「......力か?」

東あづまの視線が、美月の向こうへ移った。

その視線を浴びたジャジーと鳳ほうは、戦闘態勢を取る。

「あいつら、倒せばいいのか?」
「なんでそうなるの!?」

美月がぎょっとする。

東あづまから見れば、美月にはまだ契約印がない。
だが、あの二人との間に何かしらの深い繋がりがあることくらいは分かる。

なら、倒せばいい。

この雌を囲っている雄二匹を倒し、自分が奪えばいい。

鳳ほうは昔からの腐れ縁だ。
長い付き合いもある。

それでも今の東あづまの中では、迷う余地すらなかった。

番候補と、昔からの馴染み。

秤てんびんへ載せるまでもなく、前者が重い。

「海洋の王から百獣の王にならないでよ!」

美月が叫ぶ。

「あの二人は私の大切な人なの!」

東あづまに向けて、強く言い切った。

その言葉に、ジャジーと鳳は目を見開いた。

美月は続ける。

「それを傷つける人なら、一生好きになることはないです!」

東あづまは一度瞬いた。

「わかった。ならやらねぇ」
「早っ!?」

迷わない。

先ほどまで殺気混じりの視線を向けていたジャジーと鳳ほうから、すぐに興味を外した。

ジャジーが半眼になる。

「切り替えが怖ぇよ......」
「美月殿の一言だけで止まる点については、まだ救いがあるでござる......」
「それと!」

美月は続ける。

「私は陸で生きたいので」
「なら俺が行く」

また即答。

「............」

美月は少しだけ考え、試すように言った。

「......食事、野菜だらけになるかもよ?」
「俺が魚取ってくる」
「わぁいそこはありがた......って、まだ番にならないからね!?」

魚に釣られかける美月。
“魚を釣る”ではなく“魚に釣られる”など、普通に考えればおかしな話である。

「とりあえずお互いを知る!話はそれから!!」
「......断られたわけじゃねぇんだな?」
「ま、まぁ......そうだけど......」

告白されたジャジーにも、鳳ほうにも返事は保留中。

ならば、この東あづまだけ、今この瞬間に完全拒否する理由もない。

美月がしどろもどろに認めると、東あづまは嬉しそうに牙を見せた。

「わかった。ならお前の返事を待つ」
「......っていうかこれ、私が受け入れる方向に誘導されてる?」
「そんなつもりはねぇぞ?」
「本当...?」

美月は疑わしそうに目を細めた。

そこで、少しだけ気になったことを口にする。

「......ちなみに」
「なんだ?」
「......待った結果、番になれなかったとしたら......?」

東あづまが目を瞬く。

先ほど、自分が選んだ相手と添い遂げられなければ、自ら死ぬ者もいると言った。

なら、美月が最後まで東あづまを選ばなかった時、この男はどうするのか。

少し、怖くなった。

だが―――

「それは俺の努力が足りなかったってことだろ」
「......え......」

あまりにもあっさりしていた。

「俺らは端はなから全力だ」

東あづまは真っ直ぐ言う。

「それで選ばれなかったなら、俺らに足りねぇもんがあったってことだ。そこに文句言うのは海の男じゃねぇ」
「............」

ギュン。

美月の胸の奥で、何かが勢いよく跳ねた。

少し離れたところから、ジャジーが眉を寄せる。

「おい。遠くからでも概念擬音聞こえてきたぞ」
「だってこんなどストレートに気持ち伝えられ続けたら、キュンメーター振り切れるって!!」
「なんだそれ」

東あづまが首を傾げた。

「良いのか?悪ぃのか?」
「......ぃぃ......」

美月が小さく答える。

すると。

「そーか!ならよかった!」

ニカッと、先ほどまでの真剣さが嘘のように、東あづまは大きく笑った。

その単純明快な表情を見て、美月はしばらく黙る。
そして。

「......東あづまって、シベリアンハスキーみたいだね」
「なんだそりゃ」
「犬」
「犬!?」

東あづまの顔が盛大に歪んだ。

「うん。人間界にいる大型の犬で、全力で甘えたり遊んだりするんだけど、力加減が下手なの」
「それは俺自身知ってる」
「知ってるなら抑えてよ!」
「相手が番候補なら無理だ!」
「なんでよ!」

東あづまは当然のように海を指した。

「海は広ぇ」

一瞬だけ、その声に海の男らしい重みが乗る。

「次に会える保証なんかねぇ。気に入ったらその場で捕まえねぇと、他に取られる。本能に迷ってる暇がねぇんだよ!」
「............」

美月は海を見る。

広い。
本当に、とんでもなく広い。

その中でたまたま出会った相手と、次の日も会える保証はない。

―――そう考えると。

「......回転寿司みたい......」

沈黙。

「なんだそりゃ」
「人間界の食事処」

美月は真顔で説明を始めた。

「お米の上に魚の切り身が乗った“寿司”って食べ物が、一定のスピードで流れてくるの」
「魚が陸で流れんのか?」
「そう。流れてきたお寿司を取らないと、次いつ来るか分からないから......似てるなって」

東あづまが少し考える。

そして。

「で、寿司はどっちだ?」
「私だよチクショー!」

美月の叫びが、海岸いっぱいに響いた。

魚を釣るつもりだった美月が、東あづまという海系怪異に釣られた混沌カオス漁業。

そんなやり取りを。

「まためんどくせぇ取り巻きが増えんのかよ......」

ジャジーは眉間に皺を寄せながら聞いていた。

「......」

鳳ほうは少し離れた場所から、黙ったまま見つめていた。

先ほどまで怒りに濁っていた瞳は、すでに元へ戻っている。

けれど。

その表情だけは、ひどく複雑だった。

東あづまの言葉。

『気に入ったらその場で捕まえねぇと、他に取られる』

ジャジーにも、似たことを言われた。

そして、今。

美月は、自分とはまるで違うやり方で真っ直ぐ求める男を前にして、確かに心を動かしている。

鳳ほうは無意識に、自分の口元へ指を触れる。

海から帰ったら、伝えると決めたことがある。

その決意だけは、もう胸の奥へしまわなかった。



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転生先は隠世!?〜属性過多の妖怪達に愛され過ぎて、念願のスローライフは享年1日で終了しました〜作者:桜桃
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