
ロリータ×手錠×そして雨…
◆◇◆
「さあ......白状してもらおうか......小仁人(こにひと)郁郎(いくろう)くん......」
明かりが消され、何も見えないほど暗い部屋の中で......いかつい顔つきの少年が椅子に縛りつけられていた......その様子は、彼の普段の態度とはまるで正反対だった
「............」
それでも少年は黙って座ったまま......相手に何も答えようとしない......
彼は周りをちらりと見回した......すると、何人もの少年少女が暗闇の中に立っているのが見えた......
「ほら......もう答える気になった?」
黒髪の巻き毛を伸ばし、黒いゴシックロリータ衣装を着た少女......しかも大きなうさぎのぬいぐるみを引きずっている......
ガンッ!!
彼女は足を上げて椅子の脚を蹴った――少年の急所すれすれのところに。彼女は別の少年に何かを手渡すよう合図した......
その少年は逆らうことなく、何かを彼女の手に渡した......縛られていた少年はその少女の顔をじっと睨みつけていた......
「あんた......トイレでタバコ吸ってたよね......」
小柄な少女もまた、負けじと彼を睨み返した......
だが最後には目を逸らしてしまった......
その少女はすぐさま少年をあざ笑うような笑みを浮かべると、部屋中に響き渡るほどの声で叫んだ......
「はっ!! 私の勝ちー!」
ゴシックロリータ衣装の少女は、まるで子供のように飛び跳ねて喜んだ
そして部屋の明かりがついた......その部屋が、密室でも廃屋の一室でもなんでもないことがはっきりと分かった......
そこは、生徒会室だった......
「はあ......」
少年はため息をついた......こんな目に遭うのは、これが初めてではないからだ......
彼は数週間前のことを思い出していた......
彼はこっそりトイレでタバコを吸っていたところを、生徒会の巡回担当をしている親友に見つかってしまい......その罰として生徒会室での作業をさせられることになった......
「なんでいつもこう、僕をからかうんですか......」
ゴシックロリータ衣装の少女はそれを聞くと、すぐに駆け寄ってきて、その細く小さな指先を彼の口にそっと当てた......
「あなた、校則違反をしたんだよ、郁郎(いくろう)くん......トイレでの喫煙は校則違反だからね......」
郁郎(いくろう)と呼ばれた少年は、すぐにかっとなった......
「先輩こそどうなんですか!!! 自分だって黒いゴシック衣装を着て学校に来てるじゃないですか!!!」
彼は怒りに任せて、その小柄な先輩を指さして詰め寄った......だがその先輩はというと......
「でも校則には『校章のついた制服を着ること』としか書いてないよ。だから私は自分の服に校章を縫い付けたの。それで解決。だから私は何を着てもいいってわけ......」
彼女はどこかとぼけた口調でそう答え、郁郎(いくろう)はあっけに取られてしまった......
「あははっ、お前も知らなかったのかよ......会長がこういう人だってこと......」
彼を捕まえた張本人である親友が、彼の肩をぽんと軽く叩き、からかうように言った
「あ、それともう一つ......」
彼女は指を立てて、またとぼけた口調で言った......
「私みたいな美人がさ......あんな地味な制服着てたら、可愛くないでしょ......」
郁郎(いくろう)の表情は、宇宙の彼方よりも遠くへ飛んでいってしまった......
自分勝手で、とぼけた話し方をして、しかも自分が最高に可愛いと自信満々な、変わった性格の先輩
彼女こそが、宮島(みやじま)高校の生徒会長、花沢(はなざわ)花透(かとう)である......
彼女は誰もが夢中になる生徒会長だった......成績優秀とか、模範生だからというわけではない......
ただ、気さくで誰とでも仲良くできる性格で、学校中から可愛がられる存在だった
「よし......あなたは謹慎期間中に規則違反をしたんだから、私が直々に見張っておくことにするね......」
それを聞いた郁郎(いくろう)の親友が、すぐさま口を挟んだ......
「え?......それって、僕の役目だったはずじゃ......」
「あなたが?......悪いけど、青山(あおやま)アキト副会長......全学年の女子生徒から、あなたがセクハラ発言をしてるって報告が来ているのよ......」
「セクハラ!? 僕はただ声をかけただけですよ!!!」
そんな風に決めつけないでくださいよ......
「その話はまた今度......さて......郁郎(いくろう)くんは二度目の違反をしたわけだから......これから私の管理下に置くことにするね」
「!?」
カチャッ......
聞き慣れない、誰も聞きたくない音が部屋の中に鋭く響いた......
「............なんですかこれ......」
花透(かとう)はどこからか取り出した手錠を、彼の左腕にはめた。そしてもう片方の手錠を......自分の右腕にはめた......
「あなたをしっかり見張るために......私はあなたとずっと一緒にいなきゃいけないの......」
郁郎(いくろう)は更にあっけに取られてしまった......今日は驚くことばかりだ......可哀想に......
「先輩、頭おかしくなったんですか!!!!」
その叫び声は、学校中に響き渡るほど大きかった......
◆◇◆
夕方......
「ねえねえ......あれって花透(かとう)会長じゃない?」
「あのゴシックロリータ着てるとこ見ると、そうだよね......」
「手錠までしてる......もしかして!!??」
「きゃー!! 花透(かとう)会長、押し倒し系彼女最強すぎ!!」
「相手の子、怖そうだけどイケメンだから許せる......」
「不良男子×フレンドリー美少女......お似合いじゃない?」
「「だよねー~~~~~~~」」
周りの生徒たちが、だんだんと二人に注目するようになっていった......郁郎(いくろう)は次第に恥ずかしさを感じ始めていた......
「先輩......こんなの、恥ずかしすぎますって......」
それを聞いた彼女は、後ずさりしながら彼の顔を見つめた......
「そう?......私はこういうの、結構楽しいと思うけどな......」
彼女は笑いながら、彼に微笑みかけた......
「もしかして......これ、見張るためじゃないですよね......」
彼女は少し笑った......
「えへへ......だって、あなたって面白いんだもん......」
「なんですかそれ......」
彼女は相変わらず、とても機嫌よさそうに廊下を歩いていった......いつものことで慣れっこの郁郎(いくろう)は、その姿をただ愛おしそうに眺めることしかできなかった......
「僕が入学したときには、もう先輩がいましたよね......」
「でも私、教室では先生の話をずっとイヤホンで聞いてるだけだよ......」
郁郎(いくろう)はまた頭を抱えた......
「それと......この手錠、そろそろ外してもらえますか?」
「家に着いたら外すね......」
郁郎(いくろう)はため息をついた......だがすぐにまた頭が痛くなった......
「でも明日もまたつけるからね......」
「............僕に選択肢はないってことですよね......」
「そう! あなたに選択肢はないの ദ്ദി (˵ •̀ ᴗ - ˵) ✧」
郁郎(いくろう)は、彼女のとことん常識外れなわがままっぷりに、思わず目を天井へ向けた......
「はいはい......お好きにどうぞ......お嬢様......」
「ふふっ......いい子ね......」
彼女は背伸びをして、郁郎(いくろう)の頭をそっと撫でた......彼も少し顔が赤くなった......
◆◇◆
校舎の入り口前......
「あら?」
ザーッという、ラジオの雑音のような音が辺り一帯に響き渡った......
賑やかでいて、同時に静かでもある、そんな音だった......
「雨、降っちゃった......」
花透(かとう)はぼんやりとした目で空を見上げた......どうやら傘を持ってきていないようだった......
それを見た郁郎(いくろう)は傘を取り出した......
「一緒に帰りますか?」
「あっ......うん......」
彼が傘を開いて校舎を出ようとしたそのとき、手錠が彼の腕を引っ張った......
「どうしたんですか、先輩?」
「いいこと思いついた......」
こう来たら、頭痛の予感しかしない......
「私を抱っこして......」
「は!? なんでですか?」
だが花透(かとう)は、服が濡れてしまうという本当の理由を言う代わりに、遠回しにこう言った......
「私はあなたを繋いでる方なんだから......あなたは私の命令に従うべきでしょ......」
花透(かとう)は両腕を広げ、郁郎(いくろう)に抱っこされる体勢を取った
郁郎(いくろう)はため息をついた。もう、この自分勝手でとぼけていて、自分を美人だと信じて疑わないお嬢様の命令に逆らう術はなさそうだった......
「分かりましたよ......」
彼には他に選択肢がなかった......本当に、他に選択肢がなかったのだ......
彼はお姫様抱っこで彼女を抱き上げた......花透(かとう)は傘を持つ役目を担った......
「わあ......力持ちだね、郁郎(いくろう)くん......よく運動してるの?」
「あー......そういうわけじゃないですけど......昔、ヤンキー三人を片腕で引きずったことがあるだけです......」
「へえ......あなた、本当に危険人物なんだね......」
彼女はまた笑いながら微笑んだ......
「ねえ先輩......」
「うん?」
「なんで......いつも僕のことをからかうんですか......?」
「なんでって......それは......」
郁郎(いくろう)は、自分自身のことを語り始めた......
「僕なんて......ただの不良の一人じゃないですか......ずっと......先輩みたいな人が、思いもよらなかった......いや、考えたこともなかったんです。先輩みたいな人が......
花沢(はなざわ)花透(かとう)みたいな人が、僕みたいなやつに話しかけてくれたり、からかってくれたり、いろいろ助けてくれたりするなんて......
みんなが近づきたがらないような危険なやつ......先輩とは決して交わることのないはずのやつなのに......」
彼はそう言いながら――少女の華奢な体をぎゅっと抱きしめた......
だが花透(かとう)は、ただ微笑むだけだった......その細く小さな指を伸ばして、少年の涙をそっと拭った......
そして、こう言った......
「だって、あなたといると......楽しいんだもん......」
「...............そうなんですか?」
「うん.........」
彼はもう一度彼女の顔を見つめた......その笑顔は、どこかふざけたような笑みではあったけれど......その声に滲む素直さに、彼も思わず小さく微笑んでしまった......
「あなた......可愛いね......」
「うぐっ!!!」
先輩に褒められて......また顔が赤くなってしまった......
だが、その幸せな時間も長くは続かなかった......
ゴロゴロ......
風が急に強く吹き始めた......
「きゃっ!!!」
傘が風に飛ばされ、空高く舞い上がってしまった......二人は顔を見合わせた......
郁郎(いくろう)は全力で走った......だが少し走ったところで足を滑らせて転んでしまった......
二人は雨の降りしきる通路の真ん中で、うつ伏せに倒れ込んだ......幸い、この学校の鞄には非常用の防水袋がついていた......
郁郎(いくろう)は仰向けに寝転んで、降り注ぐ雨をまともに受けていた......
花透(かとう)はうつ伏せで、もう少しで雨水を飲み込みそうになっていた......
二人は降りしきる雨の中で、互いの顔を見つめ合った......
二人の笑い声はそこそこ大きかったけれど......それでも激しくなる雨音には敵わなかった......
それでも、二人はそのまま笑い続けることを選んだ......
ああ......今日は本当に頭が痛くなる一日だった......
ゴシックロリータ衣装のことも......手錠のことも......そしてこの雨も......
本当に......頭が痛くなる......
でも......
「............バカ......」
二人はなおも見つめ合っていた......目を逸らさずに......
そしてまた、お互いに微笑み合った......
「............バカ......」
でも......郁郎(いくろう)は密かに思っていた......
こういうのも......悪くないな、と......
◆◇◆
花透(かとう)の家の前......
「ありがとね......送ってくれて......」
カチャッ......手錠が外れる音がした......
「傘とタオル、それと手錠外してくれてありがとうございました......」
「お礼なんていいよ......」
「それじゃ......失礼します......」
郁郎(いくろう)は帰ろうとした......
「待って......」
だが花透(かとう)は彼を引き止めた......
「どうしたんですか?」
「さっき、繋いでるのが楽しいからって言ったの......嘘なんだ......」
「そうなんですか?......じゃあ......どうして僕を繋いでたんですか......」
彼女は微笑みながら手招きした......郁郎(いくろう)は何も考えずに彼女の方へ歩いて行った......
その瞬間......ネクタイを強く引っ張られる感覚があった......
彼女はネクタイを引いた......少しだけつま先立ちをして......そして......彼女の唇は、とても柔らかかった......
五秒......理屈で言えばそのはずだった......でも感覚的には......最高に幸せな、五時間にも感じられる時間だった......
心臓が限界を超えて高鳴っていた......さっきよりも......もっと強く......
「答え、もらったから......」
その柔らかな唇が、ゆっくりと離れていった......
「...............」
「また明日ね、イケメンくん......」
彼女は誘うような眼差しを彼に向け、少し舌を出した......初めて見る、そんな眼差しだった......
「はあ......」
郁郎(いくろう)は再び雨の中に座り込み、自分の強張った唇にそっと触れた......
「バカ......」
片手で頭を抱えながら、もう片方の手で顔を伝う雨を拭った......
「本当に頭が痛くなることばかりしてくれる......まったく......」
彼はもう一度彼女の日本家屋の門を振り返り、微笑みながら手を振った......
「また明日ですね......花透(かとう)先輩......」
歩く足音と、傘に当たる雨音が、静かに遠ざかっていった......
そして、その静寂だけが、雨の中に残された......