終わった夜。降りしきる雨。
自分の名前が好きだった。
小学校の友人はかっこいいともてはやし。
中学時代も自分自身の名前に誇りを持っていた。
それがどうだろうか。
高校だけは、そうもいかなかった。
終夜。
夜を終わらせ、世界を朝日で照らし出す。
そんな希望の込められた、光り輝く名前。
与えられた名とは対照的に、俺を覆う陰は深く伸びていき。
朝日から陰を見やる人々は、地平線の向こうでニヤニヤと笑みを湛えていた。
夜の暗闇を打ち消せ。
世界を明るく照らせ。
きっと、それは名に逆らい、未来を照らさず陰で燻る俺への罰だった。
ある日のことだった。
太陽から陰に向かって、一筋の光が走った。
それは温かに陰へ差し込み、柔らかに口を開いた。
「かっこいい名前じゃん」
雪原に熱いコーヒーを落とすかのように、その言葉はポツリと、だが徐々に胸の奥へと広がっていく。
きっかけは、ただそれだけ。
懐かしくもかけられた、性別も違う人からの称賛。
もう二度と、聞くことはないと思っていた真剣な声。
差し出された光の筋を握り、俺は立ち上がった。
瞬間、暗かった世界は消え去り、光は陰ごと世界全体を明るく染めた。
冷たかった世界を太陽光が照らし、熱く広がっていく。
それは広く、広く。
世界に一点の陰を残すことなく、眩く光る。
「終夜!」
嬉しそうに呼ぶ声が好きだった。
「終夜〜っ!」
少し怒って呼ぶ声が好きだった。
「......終夜」
哀しそうに紡ぐ声が好きだった。
「終夜っ!」
楽しそうに呼ぶ声が好きだった。
自分の名前が好きだった。
この名前を呼ぶ、ただ一人の声が、好きだった。
けれど、その声はもう途絶えてしまって。
世界は曇天で覆われてしまって。
雨が全身を濡らしてしまって。
ただ、それでも。
いつかまた、光が姿を現してくれるまで。
その声を聞ける時まで。
俺はずっと待ってる。
そう、ベッドに眠る彼女の手を握った。