ホーム›想刻師のいる辺境で›別れたくなかった友2
← 次の話目次前の話 →

別れたくなかった友2

 ルーナスは木を適当な大きさに切り、輪郭を描く。そこにノミを当て、慎重に削っていく。

「友達って......どんな感じなんでしょう」

 一緒にいるだけで気持ちが踊ったり、嬉しかったりするものなのだろうか。興味はあるのに、私には友達候補すら見当たらない。
 ルーナスは手を止めることなく、目だけを細める。

「一番に言えるのは......一緒にいてくれると心強い、かな」

「それはユリオンですか? エルネスですか?」

「両方だよ」

 心強いとは、どんな感じなのだろう。それも分からずに、視線を落としてしまった。

「ソレイユにも友達がいると思うんだけどな」

 ルーナスは誰のことを言っているのだろう。「誰?」と聞こうとしたところで、不意に玄関のドアが開いた。光に透ける銀髪に灰色の瞳――エルネスだ。思わず手に力が入る。
 ルーナスはエルネスを見て、意地悪そうに笑う。

「噂をしてたら、やっぱり来た」

「俺の噂か?」

「そうとも言えるし、違うとも言える」

 エルネスがよく分からないといった様子で肩を竦めると、ルーナスは小さく笑い声を上げた。ルーナスはそのまま想刻へと向き直り、エルネスは私たちの傍に腰を下ろす。

「今回の依頼が親友だから。ソレイユに友達ってどんな感じか聞かれたんだ」

「......ソレイユには友達がいないのか?」

“しまった”

 眉をひそめるエルネスに、ルーナスは口を結ぶ。
 友達がいないことは、きっと恥ずかしいことではない。小さく頷いてみせると、エルネスは「うーん」と唸り声を上げる。

「神様の教えではね、友達は喜びを倍に、苦しみを半分にしてくれる存在だよ。知ってるかもしれないけど」

 急に聖職者らしいことを言うのだな、と口をへの字に歪めてしまった。

「それは私も知っています。でも、実際はどうなのか分からなくて」

 神の教えは私も説く側の人間だったのだ。聖書の内容なら、本を見なくても言葉に出すことはできるだろう。ただし、それ以上の言葉は見つからない。
 エルネスはにこっと口角を上げる。

「じゃあ、友達を作りなよ」

「そんなに簡単に言わないでください......!」

 エルネスの理不尽な物言いに、頬を膨らませそうになる。エルネスはまっすぐに私の瞳を見るので、思わず息を止めた。

「俺と友達になる? ......なんてね」

 エルネスは「ふふっ」と笑い、ルーナスの方へと向き直る。
 今のは何だったのだろう。エルネスは私と友達になりたいのだろうか。首を傾げてみても彼の心内が読めないので、さっぱり分からない。

“ソレイユ、ごめんね”

 ルーナスは申し訳なさそうに私に目配せをしてくれる。気にしていないという意味を込めて、私は小さく頷いてみせた。
 そのやり取りを知る由もないエルネスは口を開く。

「そういえば、ユリオンからの手紙って、やっぱりお前の所にも来てないのか?」

「うん、来てないよ」

「薄情者だな......」

 エルネスは顎に手を当て、口を曲げた。ルーナスはその顔も見ずに、目を細める。

「俺たちを信頼してるだけだよ。頼れる人がいなかったら、ユリオンだってここを離れなかっただろうし」

「どうかな」

 私はユリオンのことは知らない。でも、ルーナスの意見を信じたくなる。本物の英雄なら、尚更だ。
 二人はユリオンの思い出話に花を咲かせ始めた。厄災の時はどうだったとか、旅立ちの時はどうだったとか、色々な話だ。ただ、私は全く入っていけない内容だったので、二人の話を流しながらルーナスの手先を見詰めていた。クリスの顔の輪郭が徐々に出来上がっていく。
 時間が経つのも忘れて見入っていたので、オーレが開けたドアの音に驚いてしまった。

「ただいまー!」

「おかえり」

 私とルーナス、そしてエルネスの声が重なる。

「エルネスだー!」

「オーレ、久しぶりだね」

 オーレは笑顔でエルネスの方へと駆けていき、その胸に飛び込んだ。エルネスもしっかりと抱き留め、オーレの頭を撫でる。

「エルネス、明日遊ぼー!」

「明日は雨だからな。気を付けて教会に来るんだぞ?」

「えー⁉ また雨ー⁉」

「オーレが元気だから、空も嬉し泣きしてるんだよ」

 オーレは明日も外へ行ってしまうらしい。遊び相手がいなくて寂しいのは私の方かもしれない。思わず吐息をついてしまった。

“オーレもすっかり友達が増えたな。ね、ソレイユ”

 ルーナスの心の声に、肩が跳ねた。私の友達とは、オーレのことを言っていたのだろうか。こんなに年齢が離れているのに、友達なんて――いや、年齢を気にしているのは私だけなのだろうか。

「オーレ。私はオーレにとって、友達?」

 言いながら首を傾げてみせると、オーレは眩いほどに笑ってくれた。

「うん! 大事な友達だよ!」
シェア
前の話 →
別れたくなかった友1
← 次の話
別れたくなかった友3
想刻師のいる辺境で作者:七宮叶歌
目次を見る
コメント0件
ログインしてコメントする
まだコメントがありません

別れたくなかった友2

 ルーナスは木を適当な大きさに切り、輪郭を描く。そこにノミを当て、慎重に削っていく。

「友達って......どんな感じなんでしょう」

 一緒にいるだけで気持ちが踊ったり、嬉しかったりするものなのだろうか。興味はあるのに、私には友達候補すら見当たらない。
 ルーナスは手を止めることなく、目だけを細める。

「一番に言えるのは......一緒にいてくれると心強い、かな」

「それはユリオンですか? エルネスですか?」

「両方だよ」

 心強いとは、どんな感じなのだろう。それも分からずに、視線を落としてしまった。

「ソレイユにも友達がいると思うんだけどな」

 ルーナスは誰のことを言っているのだろう。「誰?」と聞こうとしたところで、不意に玄関のドアが開いた。光に透ける銀髪に灰色の瞳――エルネスだ。思わず手に力が入る。
 ルーナスはエルネスを見て、意地悪そうに笑う。

「噂をしてたら、やっぱり来た」

「俺の噂か?」

「そうとも言えるし、違うとも言える」

 エルネスがよく分からないといった様子で肩を竦めると、ルーナスは小さく笑い声を上げた。ルーナスはそのまま想刻へと向き直り、エルネスは私たちの傍に腰を下ろす。

「今回の依頼が親友だから。ソレイユに友達ってどんな感じか聞かれたんだ」

「......ソレイユには友達がいないのか?」

“しまった”

 眉をひそめるエルネスに、ルーナスは口を結ぶ。
 友達がいないことは、きっと恥ずかしいことではない。小さく頷いてみせると、エルネスは「うーん」と唸り声を上げる。

「神様の教えではね、友達は喜びを倍に、苦しみを半分にしてくれる存在だよ。知ってるかもしれないけど」

 急に聖職者らしいことを言うのだな、と口をへの字に歪めてしまった。

「それは私も知っています。でも、実際はどうなのか分からなくて」

 神の教えは私も説く側の人間だったのだ。聖書の内容なら、本を見なくても言葉に出すことはできるだろう。ただし、それ以上の言葉は見つからない。
 エルネスはにこっと口角を上げる。

「じゃあ、友達を作りなよ」

「そんなに簡単に言わないでください......!」

 エルネスの理不尽な物言いに、頬を膨らませそうになる。エルネスはまっすぐに私の瞳を見るので、思わず息を止めた。

「俺と友達になる? ......なんてね」

 エルネスは「ふふっ」と笑い、ルーナスの方へと向き直る。
 今のは何だったのだろう。エルネスは私と友達になりたいのだろうか。首を傾げてみても彼の心内が読めないので、さっぱり分からない。

“ソレイユ、ごめんね”

 ルーナスは申し訳なさそうに私に目配せをしてくれる。気にしていないという意味を込めて、私は小さく頷いてみせた。
 そのやり取りを知る由もないエルネスは口を開く。

「そういえば、ユリオンからの手紙って、やっぱりお前の所にも来てないのか?」

「うん、来てないよ」

「薄情者だな......」

 エルネスは顎に手を当て、口を曲げた。ルーナスはその顔も見ずに、目を細める。

「俺たちを信頼してるだけだよ。頼れる人がいなかったら、ユリオンだってここを離れなかっただろうし」

「どうかな」

 私はユリオンのことは知らない。でも、ルーナスの意見を信じたくなる。本物の英雄なら、尚更だ。
 二人はユリオンの思い出話に花を咲かせ始めた。厄災の時はどうだったとか、旅立ちの時はどうだったとか、色々な話だ。ただ、私は全く入っていけない内容だったので、二人の話を流しながらルーナスの手先を見詰めていた。クリスの顔の輪郭が徐々に出来上がっていく。
 時間が経つのも忘れて見入っていたので、オーレが開けたドアの音に驚いてしまった。

「ただいまー!」

「おかえり」

 私とルーナス、そしてエルネスの声が重なる。

「エルネスだー!」

「オーレ、久しぶりだね」

 オーレは笑顔でエルネスの方へと駆けていき、その胸に飛び込んだ。エルネスもしっかりと抱き留め、オーレの頭を撫でる。

「エルネス、明日遊ぼー!」

「明日は雨だからな。気を付けて教会に来るんだぞ?」

「えー⁉ また雨ー⁉」

「オーレが元気だから、空も嬉し泣きしてるんだよ」

 オーレは明日も外へ行ってしまうらしい。遊び相手がいなくて寂しいのは私の方かもしれない。思わず吐息をついてしまった。

“オーレもすっかり友達が増えたな。ね、ソレイユ”

 ルーナスの心の声に、肩が跳ねた。私の友達とは、オーレのことを言っていたのだろうか。こんなに年齢が離れているのに、友達なんて――いや、年齢を気にしているのは私だけなのだろうか。

「オーレ。私はオーレにとって、友達?」

 言いながら首を傾げてみせると、オーレは眩いほどに笑ってくれた。

「うん! 大事な友達だよ!」
シェア
次の話別れたくなかった友3
想刻師のいる辺境で作者:七宮叶歌
目次
コメント0件
ログインしてコメントする
まだコメントがありません