

飴と金平糖
私はその駅で列車を下りた。夜はまだ明けておらず、ガス燈の心もとない明かりが、朝の気配をまとった駅員すらいないホームをぼんやりと照らしていた。
私はその駅で列車を下りた。
夜はまだ明けておらず、ガス燈の心もとない明かりが、朝の気配をまとった駅員すらいないホームをぼんやりと照らしていた。
ホームの端に立つ古びた駅名標に目をやると、手の中の切符と同じ四文字が刻まれていた。
北の町。
私はしばらく、その文字を見つめた。
どうしてここへ来たのか。何を探しに来たのか。
結局よく分からないままだけれど、どうしてもここへ来なければならないような気がした。
空の下のほうが、ゆっくりとミルク色に染まり始めていた。
私はそれを眺めながら、ほう、と息を吐き、駅を出た。
駅前の大通りに、一軒だけ明かりのついた喫茶店があった。
私は吸い込まれるように、その店へ入った。
そして――北の町で、こんな話を聞いた。
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「夢を捨て、妥協をし、様々なことを諦めるのが『大人になる』ということだ。その点からいえば、君はまだまだだな。」
「はあ......、そうですか。」
カフェでコーヒーと読書を楽しんでいると、そんな会話が隣の席から聞こえてきた。少し気になって横目で様子をうかがうと、スーツ姿の男性が二人、向かい合って座っていた。いわゆる「ドヤ顔」で話していた中年男性と、気のない返事をしている若い男性。上司と部下だろうか。
私は、二人の会話を思い返した。
よく耳にする言葉だけれど、改めて聞くと、体裁を良くして恰好つけただけの、自分を誤魔化す言葉にしか聞こえてこない。それだけじゃない。自分の価値観が全てで、絶対的に正しいと思い込んでいる人たちも少なからず存在する。なるほど、あんな風にドヤ顔で話して恍惚感に浸るわけだ。目の前の相手はテーブルの下に隠したスマホの画面ばかりを見て、全く話を聞いていないのにも気づかずに。
私はため息をついた。こんなことを考える私も、夢を捨て、妥協をし、様々なことを諦めて日々を生きている、大人なのだ。
「ねえ、知ってる? 子どもにとって、いちばん甘いものは、ドロップスなんだよ。」
カフェの外を通る女の子の言葉が、私の耳と心を直撃した。私はフッと小さく笑った。
ああ、そうか。どんな妥協も諦めも、自分の心を偽ってしまっては、真の大人とは言えないんだ。
帰り道、駄菓子屋に立ち寄って、幼い頃に大好きだった金平糖を買った。
ひと粒取り出して夕日にかざすと、陽の光を受けてキラキラと輝いた。