ホーム北の町で、こんな話を聞いた。鞄を抱く男
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挿絵AIで作った挿絵

鞄を抱く男

たどり着いたのは、田舎の無人駅だった。
 北の町で、こんな話を聞いた。

 ────────────

 たどり着いたのは、田舎の無人駅だった。
 どうしてここにいるのか、いつ、どうやってここへ来たのか、私はどうしても思い出せなかった。
 ガス燈の心もとない明かりが、ホームと駅名標を照らしていた。

 駅名標に目をやると、文字はかすれてしまっていて、読むことができなかった。
 ホームの時計も私の腕時計も止まっていて、今が何時なのかも分からない。
 あたりには家の明かりひとつ見えず、虫の声さえしない。聞こえるのは、自分の呼吸だけだった。

 ホームにぽつんと置かれたベンチには、黒いカバンを胸に抱きトレンチコートに身を包んだ男がひとり、座っていた。帽子を目深まぶかにかぶっていて顔は良く見えないが、唯一見える男の口元に、私は懐かしさを覚えた。

 ――誰かに似ている。

 そう思ったけれど、それが誰なのか思い出せない。記憶の欠片をたどろうとすると、胸の奥がチリッチリッと痛んだ。

 その男は、蝋人形のような印象で気配を全く感じない、まるで絵のようだった。

 ――この人は、なにか知っているだろうか。

 そう思い、男に声をかけようと手を伸ばしたそのとき、鳴り響く汽笛が、私を現実に引き戻した。

 列車がホームに到着し、ドアが開く。

「それに乗るといい。君は、まだ早い。」

 男は少し顔を上げ、列車を見ている。
 弾かれたように飛び乗ると、私の背後でドアが閉まった。振り返り、ガラス越しに見た男は、微笑んでいた。

 満天の星空の下、再び絵のように沈黙した男のカバンが、もそり、と動いた。
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次の話 →
深夜の列車|旅の記録 01
北の町で、こんな話を聞いた。作者:福子
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たどり着いたのは、田舎の無人駅だった。
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 たどり着いたのは、田舎の無人駅だった。
 どうしてここにいるのか、いつ、どうやってここへ来たのか、私はどうしても思い出せなかった。
 ガス燈の心もとない明かりが、ホームと駅名標を照らしていた。

 駅名標に目をやると、文字はかすれてしまっていて、読むことができなかった。
 ホームの時計も私の腕時計も止まっていて、今が何時なのかも分からない。
 あたりには家の明かりひとつ見えず、虫の声さえしない。聞こえるのは、自分の呼吸だけだった。

 ホームにぽつんと置かれたベンチには、黒いカバンを胸に抱きトレンチコートに身を包んだ男がひとり、座っていた。帽子を目深まぶかにかぶっていて顔は良く見えないが、唯一見える男の口元に、私は懐かしさを覚えた。

 ――誰かに似ている。

 そう思ったけれど、それが誰なのか思い出せない。記憶の欠片をたどろうとすると、胸の奥がチリッチリッと痛んだ。

 その男は、蝋人形のような印象で気配を全く感じない、まるで絵のようだった。

 ――この人は、なにか知っているだろうか。

 そう思い、男に声をかけようと手を伸ばしたそのとき、鳴り響く汽笛が、私を現実に引き戻した。

 列車がホームに到着し、ドアが開く。

「それに乗るといい。君は、まだ早い。」

 男は少し顔を上げ、列車を見ている。
 弾かれたように飛び乗ると、私の背後でドアが閉まった。振り返り、ガラス越しに見た男は、微笑んでいた。

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