ホーム›黒少女›#20
← 次の話目次前の話 →

#20

 【随分と被害者面が上手いのね?】

 その言葉に心臓を刺し穿うがたれた気がした。

 _______っ?! 

 【人の生き死に何て、どうでもいいくせに】

  痛い所を衝つかれた。

 _______・・・・・・黙れ。

 震える声で言い返す。

 【虚勢を張るのもいいけど____】

 _______・・・黙れ・・・黙れ・・・・・・

 声を被せ、遮さえぎった鬱陶しい思考こえ。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・黙れ黙れ黙れえぇぇええぇぇぇえええぇぇぇぇ____!

 脳内あたまで木霊する容赦ない強迫性を拒絶の言葉で搔き消し潰していく。
 しかし、そんな私の心を貫通する様に入り込んだ内面性に主導権を奪われた。

 _______あなたは一体、誰っ____!?

 そこまで思いって、気がついた。

 ____あぁ、この声は私だ。

 頭から離れない、離れてくれない。雨野という苗字が思考に絡みつき、何を考えてもそこに引き戻される。
 面影のある顔と雰囲気、だけど澪とは似ても似つかない真逆の性格。
 それでも、この胸の動悸が最悪の事態を想定している様で気持ちが悪くなる。

 「・・・・・・・・・分かりました。 では、放課後にお伺いします」

 抑え込んだ濁流を抱え、逃げる様にその場を去った私は昼食を取る気にもなれず校内を考えなしに彷徨さまよっていた。浅く速い呼吸で視界が狭まり始め、どこか静かな場所を求め歩き続ける。

______________________________________


 そうして、辿り着いたのは図書室だった。ひんやりとした空間に規則的に並べられた本棚、入り口には新刊からオススメと書かれた本まで幅広いジャンルのものが取り揃えられている。

 「図書室に来られたの初めてですね?」

 恐る恐る中へと歩みを進める私に一人の生徒が話しかけてきた。

 「えっと・・・・・・どうして初めてって分かったの?」

 胸に抱えた文庫本と礼儀正しい風貌ふうぼうから文学少女と見て取れる。

 「私、ここの図書委員なんです。 だから、来られた生徒の方の顔は覚えちゃってて・・・・・・」

 そう言いながら少女は恥ずかしそうに照れていた。

 「そうなんだ」

 「僭越せんえつながら、顔色が少し良くないようにお見受けいたしまう。 差し支えなければ、ここで少し休まれてみてはどうでしょうか?」
 
 塞ぎ気味だった私の顔を覗き込み、心配そうに何かを考え始めるとすぐに何かを閃いた様で____。

 「え、ここで?」

 「この時間の図書室は校舎を吹き抜ける風が窓から入って、すごく気持ちいいんですよ。 それに、私はここを任せられているので多少の勝手は許されるかと」

 見た目に反して考える事は随分と大胆な図書委員。
 それから私は少女について行き、幾つかの区画を抜けて、比較的落ち着いた室内のテーブルへと案内された。澄んだ空気と昼下がりの太陽の温かさが眠気を誘う。

 「よろしければ、お茶菓子などいかがですか? ここなら、人も来ませんし、ゆっくりできますよ」

 「それは嬉しいんだけど・・・ここって、本当に図書室?」

 少し休むとは言ったが、ここまでの待遇は予想外だった。

 「本当は図書委員しか使っちゃいけないんですけど、今回は特別です!」

 (・・・・・・・・・そういうことじゃないと思うんだけど)

 っと、思いつつも彼女の用意してくれた菓子を口に運んでみた。カカオ香る大人な苦みの効いたクッキーは出された紅茶と程よく調和し乱れた自律神経が整えられていく。

 「お口に合いますか?」

 「・・・・・・美味しい」

 心配そうな彼女と裏腹に菓子に気を取られていた私は数秒遅れて返事をした。

 「良かったです。 顔色も先程より、良くなっていますね」

 昼休みの終わりは迫ってきているというのに、このままここに居たいと不覚にも思ってしまった。

 ____あっ! ここに居たんだ、探したよ~!

 ガチャっと唐突に開いた扉の向こうから、ツーサイドアップの髪型が特徴的な一人の女子生徒が勢いよく入ってきた。

 「すいません。 私の友達です・・・・・・図書室なんだから静かにしてください・・・」

 申し訳なさそうに友人に注意する少女に対して、どこか能天気な侵入者。対照的な二人を見ていると、思い出してしまいそうになる。

 「敬語はナシって言ったでしょ? それに、図書委員がこんな所でいいのかなぁ~?」

 ニヤニヤとわざとらしい笑みを浮かべ、こちらに近づいて来る。

 「うぐっ____それはそうだけど・・・」

 「だったら、人の事、言えないよね? ____ねぇ?」

 思わず黙り込んでしまう少女に対して自身の主張が相手を説き伏せた事に勝利を確信し、さらに追い打ちをかける。

 「・・・・・・と、とにかく! 昼休みももうすぐ終わりです。帰ってくださいっ! これは、友人としてではなく、図書委員としての命令ですっ_!」

 そこまで言い切って、図書委員の生徒は持っていた本を悪友の胸へと突きつけた。

 (あれって、さっきあの子が持ってたやつ)

 「今日もありがとねっ」

 悪戯イタズラに指で摘まみ上げた本を自分の顔に近づけて見せる少女。
 
 「やっぱり、一日一冊いちにちいっさつは大事ですよね?」

 同意を求める様な眼差しが私へと向けられた。

 「ちょっと、変なことしないでっ_! 最近、おかしいよ? さっさと、教室に帰って・・・」

 「は~い」

 踵きびすを返し、扉に手を掛けた少女は何かを思い出したように立ち止まり再び私の方へと目線を向けた。

 「あ、そうだ! お騒がせして申し訳ありませんでした____」

 _______夜ノ舞せんぱいっ。

 (____ッ)

 そう言い残し部屋を去った。

 そして、室内に残された私ともう一人の少女。掻き乱された空気は修復されることはなく、腰掛けた椅子の軋きしみが一際目立って、わずらわしい。
 気まずい空気と初めて先輩と呼ばれたこと。そんな、経験も相まって私の行動優先順位が混濁こんだくし、次の行動への脳内信号を出せずにいた。

 「そろそろ、お昼休みも終わりますね。 先程は、お騒がせしてすいませんでした」

 言葉は酷く透明で消え入りそうなほど小さかった。きっと彼女は感受性が豊かで少しばかり、周りを気にし過ぎな性格。だからこそ、一度見た人の顔を覚えられているのだろう。

 「ううん、別に気にしなくていいよ」

 ほどなくして、私は図書室を後にした。ここでの出来事は私が経験してきた学校生活では味わえない様な驚きと親しみ、生徒同士の関係性を再認識出来た気がした。
 でも、一つだけ意図せず忘れられない顔が頭をよぎっては消えていく。

 それは、あの無邪気な来訪者から向けられた純粋で静かで威圧感のある笑顔だった。


 

 

 
シェア
前の話 →
#19
← 次の話
#21
黒少女作者:真冬 白雪
目次を見る
コメント0件
ログインしてコメントする
まだコメントがありません
ホーム›黒少女›#20
← 前の話目次次の話 →

#20

 【随分と被害者面が上手いのね?】

 その言葉に心臓を刺し穿うがたれた気がした。

 _______っ?! 

 【人の生き死に何て、どうでもいいくせに】

  痛い所を衝つかれた。

 _______・・・・・・黙れ。

 震える声で言い返す。

 【虚勢を張るのもいいけど____】

 _______・・・黙れ・・・黙れ・・・・・・

 声を被せ、遮さえぎった鬱陶しい思考こえ。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・黙れ黙れ黙れえぇぇええぇぇぇえええぇぇぇぇ____!

 脳内あたまで木霊する容赦ない強迫性を拒絶の言葉で搔き消し潰していく。
 しかし、そんな私の心を貫通する様に入り込んだ内面性に主導権を奪われた。

 _______あなたは一体、誰っ____!?

 そこまで思いって、気がついた。

 ____あぁ、この声は私だ。

 頭から離れない、離れてくれない。雨野という苗字が思考に絡みつき、何を考えてもそこに引き戻される。
 面影のある顔と雰囲気、だけど澪とは似ても似つかない真逆の性格。
 それでも、この胸の動悸が最悪の事態を想定している様で気持ちが悪くなる。

 「・・・・・・・・・分かりました。 では、放課後にお伺いします」

 抑え込んだ濁流を抱え、逃げる様にその場を去った私は昼食を取る気にもなれず校内を考えなしに彷徨さまよっていた。浅く速い呼吸で視界が狭まり始め、どこか静かな場所を求め歩き続ける。

______________________________________


 そうして、辿り着いたのは図書室だった。ひんやりとした空間に規則的に並べられた本棚、入り口には新刊からオススメと書かれた本まで幅広いジャンルのものが取り揃えられている。

 「図書室に来られたの初めてですね?」

 恐る恐る中へと歩みを進める私に一人の生徒が話しかけてきた。

 「えっと・・・・・・どうして初めてって分かったの?」

 胸に抱えた文庫本と礼儀正しい風貌ふうぼうから文学少女と見て取れる。

 「私、ここの図書委員なんです。 だから、来られた生徒の方の顔は覚えちゃってて・・・・・・」

 そう言いながら少女は恥ずかしそうに照れていた。

 「そうなんだ」

 「僭越せんえつながら、顔色が少し良くないようにお見受けいたしまう。 差し支えなければ、ここで少し休まれてみてはどうでしょうか?」
 
 塞ぎ気味だった私の顔を覗き込み、心配そうに何かを考え始めるとすぐに何かを閃いた様で____。

 「え、ここで?」

 「この時間の図書室は校舎を吹き抜ける風が窓から入って、すごく気持ちいいんですよ。 それに、私はここを任せられているので多少の勝手は許されるかと」

 見た目に反して考える事は随分と大胆な図書委員。
 それから私は少女について行き、幾つかの区画を抜けて、比較的落ち着いた室内のテーブルへと案内された。澄んだ空気と昼下がりの太陽の温かさが眠気を誘う。

 「よろしければ、お茶菓子などいかがですか? ここなら、人も来ませんし、ゆっくりできますよ」

 「それは嬉しいんだけど・・・ここって、本当に図書室?」

 少し休むとは言ったが、ここまでの待遇は予想外だった。

 「本当は図書委員しか使っちゃいけないんですけど、今回は特別です!」

 (・・・・・・・・・そういうことじゃないと思うんだけど)

 っと、思いつつも彼女の用意してくれた菓子を口に運んでみた。カカオ香る大人な苦みの効いたクッキーは出された紅茶と程よく調和し乱れた自律神経が整えられていく。

 「お口に合いますか?」

 「・・・・・・美味しい」

 心配そうな彼女と裏腹に菓子に気を取られていた私は数秒遅れて返事をした。

 「良かったです。 顔色も先程より、良くなっていますね」

 昼休みの終わりは迫ってきているというのに、このままここに居たいと不覚にも思ってしまった。

 ____あっ! ここに居たんだ、探したよ~!

 ガチャっと唐突に開いた扉の向こうから、ツーサイドアップの髪型が特徴的な一人の女子生徒が勢いよく入ってきた。

 「すいません。 私の友達です・・・・・・図書室なんだから静かにしてください・・・」

 申し訳なさそうに友人に注意する少女に対して、どこか能天気な侵入者。対照的な二人を見ていると、思い出してしまいそうになる。

 「敬語はナシって言ったでしょ? それに、図書委員がこんな所でいいのかなぁ~?」

 ニヤニヤとわざとらしい笑みを浮かべ、こちらに近づいて来る。

 「うぐっ____それはそうだけど・・・」

 「だったら、人の事、言えないよね? ____ねぇ?」

 思わず黙り込んでしまう少女に対して自身の主張が相手を説き伏せた事に勝利を確信し、さらに追い打ちをかける。

 「・・・・・・と、とにかく! 昼休みももうすぐ終わりです。帰ってくださいっ! これは、友人としてではなく、図書委員としての命令ですっ_!」

 そこまで言い切って、図書委員の生徒は持っていた本を悪友の胸へと突きつけた。

 (あれって、さっきあの子が持ってたやつ)

 「今日もありがとねっ」

 悪戯イタズラに指で摘まみ上げた本を自分の顔に近づけて見せる少女。
 
 「やっぱり、一日一冊いちにちいっさつは大事ですよね?」

 同意を求める様な眼差しが私へと向けられた。

 「ちょっと、変なことしないでっ_! 最近、おかしいよ? さっさと、教室に帰って・・・」

 「は~い」

 踵きびすを返し、扉に手を掛けた少女は何かを思い出したように立ち止まり再び私の方へと目線を向けた。

 「あ、そうだ! お騒がせして申し訳ありませんでした____」

 _______夜ノ舞せんぱいっ。

 (____ッ)

 そう言い残し部屋を去った。

 そして、室内に残された私ともう一人の少女。掻き乱された空気は修復されることはなく、腰掛けた椅子の軋きしみが一際目立って、わずらわしい。
 気まずい空気と初めて先輩と呼ばれたこと。そんな、経験も相まって私の行動優先順位が混濁こんだくし、次の行動への脳内信号を出せずにいた。

 「そろそろ、お昼休みも終わりますね。 先程は、お騒がせしてすいませんでした」

 言葉は酷く透明で消え入りそうなほど小さかった。きっと彼女は感受性が豊かで少しばかり、周りを気にし過ぎな性格。だからこそ、一度見た人の顔を覚えられているのだろう。

 「ううん、別に気にしなくていいよ」

 ほどなくして、私は図書室を後にした。ここでの出来事は私が経験してきた学校生活では味わえない様な驚きと親しみ、生徒同士の関係性を再認識出来た気がした。
 でも、一つだけ意図せず忘れられない顔が頭をよぎっては消えていく。

 それは、あの無邪気な来訪者から向けられた純粋で静かで威圧感のある笑顔だった。


 

 

 
シェア
← 前の話
#19
次の話 →
#21
黒少女作者:真冬 白雪
目次
コメント0件
ログインしてコメントする
まだコメントがありません