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耳にする1

 最終的には助けてくれたものの、一度は置き去りにされそうになった。その日の夜のうちにアルフレッドとゼインを部屋に呼び寄せて床に座らせ、口を尖らせる。

「何で置いていこうとしたの」

「それは......条件反射でつい、な」

「弁解しようもありません」

 二人はしゅんと頭を垂れ、縮こまっている。私は何も、二人を責め立てるつもりはない。ただ、素直に謝って欲しいだけだ。
 腕を組み、更に頬を膨らませると、ようやくその言葉は聞けた。

「すまない」

「ごめんなさい」

「......許す」

 これで私は満足だ。何度か頷くと、にこっと笑ってみせた。

「頭を上げなさい」

「ははーっ、王女様ー」

「レイン、茶化すな」

 アルフレッドはゼインを肘で小突き、眉をひそめる。その光景が面白くて、笑ってしまった。

「ほら、ティア様ももう怒ってませんて」

「それでもだぞ」

「良いよ、二人とも立って」

 これでは夕食も楽しくなくなるというものだ。手で促し、食卓に着かせる。
 私が肉好きと知ってから、アルフレッドとゼインは肉料理を多く出してくれるようになった。今夜は生ハムピザがメイン料理だ。珍しく私がテーブルに並べ、料理にありつく。伸びるチーズが食感も味わいも楽しくて癖になる。

「そうだ。これからなんですけど」

 ゼインはピザを飲み込むと、意味深に切り出した。

「ティア様とセシル様には船から出ないでいただこうと思ってます」

「えっ? どうして?」

「僕としても、これ以上、お二人を危険に晒したくないんです」

 言っている意味は分かる。それでも、降り立った街の散策が楽しみとなった私にとって、苦痛以外の何物でもない。

「でも、ストレスが――」

「これを聞いても、そんな風に言えますか?」

 ゼインはラジオをテーブルに置き、チャンネルのダイヤルを回す。すると、ノイズ混じりに最悪の状況が伝えられていたのだ。

「今日の夕方、重要指名手配されているアルフレッド・シャルレイをリンヒルの水族館で目撃したとの情報が多数寄せられています。当時、アルフレッドとみられる人物は男女三人で行動していたそうです。髪を黒く染めていたとの情報もあり、騎士当局は似顔絵を更新するとのことです。繰り返しお伝えします。今日の夕方――」

「もう分かりますよね」

 ゼインはラジオの電源を落とし、深い息を吐いた。

「セシル様だけではありません。最悪、僕とティア様も似顔絵を公開されるかもしれません」

 あまりにも絶望的な状況に、生唾を飲み込んだ。

「ヘアカラーも意味がなくなったか......」

「残念ですが」

 アルフレッドは悔しそうに口を引き締める。ゼインも解決策が見つからないようで、ただ首を横に振るだけだった。

「......我慢なんて、出来ないよ」

 声が震える。しかし、アルフレッドもゼインも、苦しそうな表情をするだけだ。

「出来るかどうかじゃなくて、するんです」

 それ以外に、命が助かる方法はないと言うように、ゼインは目で訴えかけてくる。楽しみのない人生なんて、いらないのに。半ば諦めて、ぎゅっと拳を握り締めた。

「ハルネイオ国王は何を考えてらっしゃるんでしょうね。愛娘を死亡扱いして、愛娘のヒーローを重要指名手配犯にして」

 それ以上、父王の悪口は言わないで欲しい。思うのに、ゼインが正しいことを言っているのは分かるので言葉には出来ない。
 一気に食欲がなくなってしまい、手を拭いたティッシュを丸めた。

「部屋で休んでくるね」

 耳だけ残ったピザを横目に、部屋を出た。悲観的になる前に、今日はもう眠ってしまおう。柔らかくはないベッドに身体を横たえ、そっと瞼を閉じた。

 * * *

 号外を手に入れるためだけに、最寄りの島へと着陸したらしい。私はその光景を部屋の窓から見ていた。どこでも見られる停泊所の風景――見ず知らずの土地なのに、つまらないものとして捉えていた。
 十数分後、船は離陸する。アルフレッドに急上昇を嗜められたのか、今日はゆっくりと上昇する。
 ここにいても暇だ。考えるよりも早く、足はアルフレッドの部屋へと向かっていた。

「セシル、入れてー」

 ノックをしながら声を上げると、アルフレッドの方からドアを開けてくれた。その髪色は黒ではなく、銀のままだ。

「どうした?」

「落ち着かなくて」

 アルフレッドは微笑み、中へと迎え入れてくれた。
 いつものように私は椅子に座らせてもらい、アルフレッドはベッドに腰掛ける。

「なあ、ティア」

「ん?」

「俺たちは、どうなったら逃亡が成功したって言えるんだろうな」

 考えたこともなかった。今を必死に逃げるのに精一杯で、逃亡に終わりがあるのかも分からない。

「お父様が認めてくれるとか、世界に認めてもらえるとか?」

「そうするためには、俺たちはどうしたら良い?」

「うーん......」

 国に帰れない以上、父王に面会も出来ない。世界に認められるとなると、元婚約相手国の面子も立てなくてはならない。どちらも生還よりも難しいことのように思え、気が遠くなる。
 これ以上の逃亡は無理かもしれない。唇を噛み締めると、ノックの音が響いた。

「僕です。レインです」

「ああ。入って良いぞ」

 ひょこっと顔を覗かせたゼインの手には、しっかりと号外が握られている。

「逃亡成功の答え、出ました?」

「お前、聞いてたな?」

 ゼインはアルフレッドに笑ってみせると、部屋の中へとやってくる。

「早く見せて」

 ゼインが号外を広げると、黒髪のアルフレッドの似顔絵だけではなく、私の似顔絵まで並べて掲載されていた。あまりの衝撃に心臓が飛び跳ねた。やはり前のものと同じように、顔の輪郭や鼻、口はよく似ている。しかし、若干つり目で、目は死んでいる。ゼインの似顔絵はない。

「なんで僕だけないんですかねぇ。仲間として見られてない......?」

 ゼインは少し不服そうだけれど、尋ね人にならないだけ良いと思う。三人一緒に追われでもしたら、不足品の補給すら出来なくなってしまうのだから。
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王女だった私は空を渡る作者:七宮叶歌
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耳にする1

 最終的には助けてくれたものの、一度は置き去りにされそうになった。その日の夜のうちにアルフレッドとゼインを部屋に呼び寄せて床に座らせ、口を尖らせる。

「何で置いていこうとしたの」

「それは......条件反射でつい、な」

「弁解しようもありません」

 二人はしゅんと頭を垂れ、縮こまっている。私は何も、二人を責め立てるつもりはない。ただ、素直に謝って欲しいだけだ。
 腕を組み、更に頬を膨らませると、ようやくその言葉は聞けた。

「すまない」

「ごめんなさい」

「......許す」

 これで私は満足だ。何度か頷くと、にこっと笑ってみせた。

「頭を上げなさい」

「ははーっ、王女様ー」

「レイン、茶化すな」

 アルフレッドはゼインを肘で小突き、眉をひそめる。その光景が面白くて、笑ってしまった。

「ほら、ティア様ももう怒ってませんて」

「それでもだぞ」

「良いよ、二人とも立って」

 これでは夕食も楽しくなくなるというものだ。手で促し、食卓に着かせる。
 私が肉好きと知ってから、アルフレッドとゼインは肉料理を多く出してくれるようになった。今夜は生ハムピザがメイン料理だ。珍しく私がテーブルに並べ、料理にありつく。伸びるチーズが食感も味わいも楽しくて癖になる。

「そうだ。これからなんですけど」

 ゼインはピザを飲み込むと、意味深に切り出した。

「ティア様とセシル様には船から出ないでいただこうと思ってます」

「えっ? どうして?」

「僕としても、これ以上、お二人を危険に晒したくないんです」

 言っている意味は分かる。それでも、降り立った街の散策が楽しみとなった私にとって、苦痛以外の何物でもない。

「でも、ストレスが――」

「これを聞いても、そんな風に言えますか?」

 ゼインはラジオをテーブルに置き、チャンネルのダイヤルを回す。すると、ノイズ混じりに最悪の状況が伝えられていたのだ。

「今日の夕方、重要指名手配されているアルフレッド・シャルレイをリンヒルの水族館で目撃したとの情報が多数寄せられています。当時、アルフレッドとみられる人物は男女三人で行動していたそうです。髪を黒く染めていたとの情報もあり、騎士当局は似顔絵を更新するとのことです。繰り返しお伝えします。今日の夕方――」

「もう分かりますよね」

 ゼインはラジオの電源を落とし、深い息を吐いた。

「セシル様だけではありません。最悪、僕とティア様も似顔絵を公開されるかもしれません」

 あまりにも絶望的な状況に、生唾を飲み込んだ。

「ヘアカラーも意味がなくなったか......」

「残念ですが」

 アルフレッドは悔しそうに口を引き締める。ゼインも解決策が見つからないようで、ただ首を横に振るだけだった。

「......我慢なんて、出来ないよ」

 声が震える。しかし、アルフレッドもゼインも、苦しそうな表情をするだけだ。

「出来るかどうかじゃなくて、するんです」

 それ以外に、命が助かる方法はないと言うように、ゼインは目で訴えかけてくる。楽しみのない人生なんて、いらないのに。半ば諦めて、ぎゅっと拳を握り締めた。

「ハルネイオ国王は何を考えてらっしゃるんでしょうね。愛娘を死亡扱いして、愛娘のヒーローを重要指名手配犯にして」

 それ以上、父王の悪口は言わないで欲しい。思うのに、ゼインが正しいことを言っているのは分かるので言葉には出来ない。
 一気に食欲がなくなってしまい、手を拭いたティッシュを丸めた。

「部屋で休んでくるね」

 耳だけ残ったピザを横目に、部屋を出た。悲観的になる前に、今日はもう眠ってしまおう。柔らかくはないベッドに身体を横たえ、そっと瞼を閉じた。

 * * *

 号外を手に入れるためだけに、最寄りの島へと着陸したらしい。私はその光景を部屋の窓から見ていた。どこでも見られる停泊所の風景――見ず知らずの土地なのに、つまらないものとして捉えていた。
 十数分後、船は離陸する。アルフレッドに急上昇を嗜められたのか、今日はゆっくりと上昇する。
 ここにいても暇だ。考えるよりも早く、足はアルフレッドの部屋へと向かっていた。

「セシル、入れてー」

 ノックをしながら声を上げると、アルフレッドの方からドアを開けてくれた。その髪色は黒ではなく、銀のままだ。

「どうした?」

「落ち着かなくて」

 アルフレッドは微笑み、中へと迎え入れてくれた。
 いつものように私は椅子に座らせてもらい、アルフレッドはベッドに腰掛ける。

「なあ、ティア」

「ん?」

「俺たちは、どうなったら逃亡が成功したって言えるんだろうな」

 考えたこともなかった。今を必死に逃げるのに精一杯で、逃亡に終わりがあるのかも分からない。

「お父様が認めてくれるとか、世界に認めてもらえるとか?」

「そうするためには、俺たちはどうしたら良い?」

「うーん......」

 国に帰れない以上、父王に面会も出来ない。世界に認められるとなると、元婚約相手国の面子も立てなくてはならない。どちらも生還よりも難しいことのように思え、気が遠くなる。
 これ以上の逃亡は無理かもしれない。唇を噛み締めると、ノックの音が響いた。

「僕です。レインです」

「ああ。入って良いぞ」

 ひょこっと顔を覗かせたゼインの手には、しっかりと号外が握られている。

「逃亡成功の答え、出ました?」

「お前、聞いてたな?」

 ゼインはアルフレッドに笑ってみせると、部屋の中へとやってくる。

「早く見せて」

 ゼインが号外を広げると、黒髪のアルフレッドの似顔絵だけではなく、私の似顔絵まで並べて掲載されていた。あまりの衝撃に心臓が飛び跳ねた。やはり前のものと同じように、顔の輪郭や鼻、口はよく似ている。しかし、若干つり目で、目は死んでいる。ゼインの似顔絵はない。

「なんで僕だけないんですかねぇ。仲間として見られてない......?」

 ゼインは少し不服そうだけれど、尋ね人にならないだけ良いと思う。三人一緒に追われでもしたら、不足品の補給すら出来なくなってしまうのだから。
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次の話耳にする2
王女だった私は空を渡る作者:七宮叶歌
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