
暴かれる2
ゼインからチケットを受け取ると、アルフレッドと手を繋いだまま赤レンガ造りの城のような建物の中へと入る。薄暗く、ねっとりとした湿気のある室内では、巨大な水槽だけがライトアップされている。色とりどりのサンゴに纏わりつくように、熱帯魚たちが顔を出す。可愛らしく、いつまでも眺められてしまう。「これ、なんていう魚?」 オレンジと白の縞模様になっている小魚を指差し、アルフレッドに首を傾げてみる。「ミナミノツノカクシだな」「物知りだねぇ」「そこに書いてある」 アルフレッドの指差す方には、イラストと共にでかでかと魚の名前が記されているプレートがライトアップされていた。恥ずかしすぎる。顔を赤らめていると、後ろでゼインが「ぷっ」と吹き出した。「笑わないでよー」「......すみません」 謝っておきながら、ゼインの笑いは止まらない。なんだか、怒っている私の方が馬鹿らしくなってしまう。アルフレッドにまで笑いが伝染してしまい、収拾がつかなくなった。「もう良いよー」 ちょっぴり拗ねながら、魚に目を凝らす。他にも青や赤、黄色の小魚がいて、見ていて飽きない。 ようやく二人の笑いも止まり、アルフレッドが目元を拭う。「そろそろ次の水槽に行こう」「えー?」「ずっとここにいても閉館するだけだぞ?」 確かに、他にも水槽はたくさんあるだろう。後ろ髪を引かれながら、次の円柱になっている水槽へと向かった。青い水槽で、半透明の白いクラゲがシャボン玉のようにぷかぷかと漂っている。「綺麗......」 他の何にも形容しがたい、神秘的な美しさを纏っている。
「こう、持ち歩きたい美しさだな」「持ち歩きたい?」「ああ。肌身離さず身につけて、いつでも眺められるようにしていたい」 不思議なたとえをするのだな、とアルフレッドの顔を見上げてみる。空色の瞳はクラゲの白を反射し、キラキラと輝いている。私としては、アルフレッドの瞳の方が『持ち歩きたい美しさ』だ。これで髪が黒ではなく銀だったら、余計に心はときめいていただろう。「ティア様、セシル様の顔は展示物じゃありませんよ?」 心の声が覗かれていたようで、肩がびくついた。アネモネと会話をしてから、ゼインのツッコミが鋭くなった気がする。「わ、私はクラゲを見てたよ?」「そうですか?」 振り返らなくても分かる。絶対にゼインはニヤニヤしている。徐々に顔は熱くなっていく。アルフレッドがこちらを向くと同時に、クラゲへと視線を移した。「素直じゃないですねぇ」 ゼインが呟く。その時、水槽の明かりが一瞬だけ揺らいだ気がした。外で雷でも鳴っているのだろうか。「今、明かりが......」
「......次に行こ! 次!」 アルフレッドの呟きを無視し、次の水槽へと向かう。雷に不安がない訳ではない。不安だからこそ、追及出来ないのだ。そこへ追い打ちをかけるかのような言葉がアルフレッドの口から飛び出した。「さっき、ティアは俺を見てたのか?」 ああ、嫌になる。恥ずかしすぎて答えられるはずがない。ホープ号に戻ったらゼインに説教をしよう。心に決めた時だった。 そこへアナウンスが入る。「ご来場の皆様にお知らせです。間もなく、イルカショーが始まります。ご観覧希望の方は、二階のイルカショーステージへお越しください。間もなく――」「イルカショー?」「観に行きましょう!」 私とアルフレッドが首を傾げている間に、ゼインは階段の方へ行こうとする。イルカがどんな生き物かも分からないので、あまりワクワク感はない。「うーん、私はここで魚を見てても良いんだけど」「後でイルカを見たら、ショーを観なかったことを後悔しますよ」 ゼインは語気を強めて言い、グッドサインを送る。そこまで言うのなら、観てあげても良いだろうか。アルフレッドと見詰め合い、唸り声を上げる。「行ってみるか」「うん」 結論はすぐに出た。駆けていくゼインの後を、私たちもなんとなく追う。水族館で一番はしゃいでいるのは私ではなく、ゼインではないだろうか。そう思ったけれど、楽しそうなら、まあ良いか。ゼインのこれまでの苦労を思い返し、一人納得した。 ショーステージに辿り着くと、客という客が押しかけていた。館内にこれだけの人がいたのかというほどだ。最前列には透明シートが用意されている。水除け用、なのだろうか。「まさか、水が飛んでくるわけじゃないよね?」 アルフレッドのヘアカラーが気になってしまい、眉間にしわを寄せた。「念のため、後ろの席に座ろう」 アルフレッドは最後列を指差す。「最後列に透明シートがないなら、水は飛んでこないんだろう」 心配よりも好奇心が勝ったらしい。アルフレッドからも、ゼインからも撤退という言葉は出なかった。最後列の席に座り、イルカの登場を待ちわびる。 そこへ、飼育員の女性が一人登場した。何やら手で合図を送ると、三匹のイルカたちがプールからステージへと飛び出す。「みなさーん、こんにちはー」「こんにちはー!」 飼育員の挨拶に、子供たちの可愛らしい声が反応する。すると、イルカもヒレをパタパタと振ってくれるのだ。「何このイルカ! 可愛いー!」 思わず声を上げていた。ゼインは頷き、誇らしげに腕を組む。「そうでしょ? ティア様なら気に入ると思ったんですよ」 アルフレッドの方を見てみると、彼もまた無言で目を輝かせるのだった。こちらも可愛い。無意識のうちに拳を握る。 そこで気付いてしまった。プールの後ろにある窓に、雨が打ち付けているのを。 暴かれる2
ゼインからチケットを受け取ると、アルフレッドと手を繋いだまま赤レンガ造りの城のような建物の中へと入る。薄暗く、ねっとりとした湿気のある室内では、巨大な水槽だけがライトアップされている。色とりどりのサンゴに纏わりつくように、熱帯魚たちが顔を出す。可愛らしく、いつまでも眺められてしまう。「これ、なんていう魚?」 オレンジと白の縞模様になっている小魚を指差し、アルフレッドに首を傾げてみる。「ミナミノツノカクシだな」「物知りだねぇ」「そこに書いてある」 アルフレッドの指差す方には、イラストと共にでかでかと魚の名前が記されているプレートがライトアップされていた。恥ずかしすぎる。顔を赤らめていると、後ろでゼインが「ぷっ」と吹き出した。「笑わないでよー」「......すみません」 謝っておきながら、ゼインの笑いは止まらない。なんだか、怒っている私の方が馬鹿らしくなってしまう。アルフレッドにまで笑いが伝染してしまい、収拾がつかなくなった。「もう良いよー」 ちょっぴり拗ねながら、魚に目を凝らす。他にも青や赤、黄色の小魚がいて、見ていて飽きない。 ようやく二人の笑いも止まり、アルフレッドが目元を拭う。「そろそろ次の水槽に行こう」「えー?」「ずっとここにいても閉館するだけだぞ?」 確かに、他にも水槽はたくさんあるだろう。後ろ髪を引かれながら、次の円柱になっている水槽へと向かった。青い水槽で、半透明の白いクラゲがシャボン玉のようにぷかぷかと漂っている。「綺麗......」 他の何にも形容しがたい、神秘的な美しさを纏っている。
「こう、持ち歩きたい美しさだな」「持ち歩きたい?」「ああ。肌身離さず身につけて、いつでも眺められるようにしていたい」 不思議なたとえをするのだな、とアルフレッドの顔を見上げてみる。空色の瞳はクラゲの白を反射し、キラキラと輝いている。私としては、アルフレッドの瞳の方が『持ち歩きたい美しさ』だ。これで髪が黒ではなく銀だったら、余計に心はときめいていただろう。「ティア様、セシル様の顔は展示物じゃありませんよ?」 心の声が覗かれていたようで、肩がびくついた。アネモネと会話をしてから、ゼインのツッコミが鋭くなった気がする。「わ、私はクラゲを見てたよ?」「そうですか?」 振り返らなくても分かる。絶対にゼインはニヤニヤしている。徐々に顔は熱くなっていく。アルフレッドがこちらを向くと同時に、クラゲへと視線を移した。「素直じゃないですねぇ」 ゼインが呟く。その時、水槽の明かりが一瞬だけ揺らいだ気がした。外で雷でも鳴っているのだろうか。「今、明かりが......」
「......次に行こ! 次!」 アルフレッドの呟きを無視し、次の水槽へと向かう。雷に不安がない訳ではない。不安だからこそ、追及出来ないのだ。そこへ追い打ちをかけるかのような言葉がアルフレッドの口から飛び出した。「さっき、ティアは俺を見てたのか?」 ああ、嫌になる。恥ずかしすぎて答えられるはずがない。ホープ号に戻ったらゼインに説教をしよう。心に決めた時だった。 そこへアナウンスが入る。「ご来場の皆様にお知らせです。間もなく、イルカショーが始まります。ご観覧希望の方は、二階のイルカショーステージへお越しください。間もなく――」「イルカショー?」「観に行きましょう!」 私とアルフレッドが首を傾げている間に、ゼインは階段の方へ行こうとする。イルカがどんな生き物かも分からないので、あまりワクワク感はない。「うーん、私はここで魚を見てても良いんだけど」「後でイルカを見たら、ショーを観なかったことを後悔しますよ」 ゼインは語気を強めて言い、グッドサインを送る。そこまで言うのなら、観てあげても良いだろうか。アルフレッドと見詰め合い、唸り声を上げる。「行ってみるか」「うん」 結論はすぐに出た。駆けていくゼインの後を、私たちもなんとなく追う。水族館で一番はしゃいでいるのは私ではなく、ゼインではないだろうか。そう思ったけれど、楽しそうなら、まあ良いか。ゼインのこれまでの苦労を思い返し、一人納得した。 ショーステージに辿り着くと、客という客が押しかけていた。館内にこれだけの人がいたのかというほどだ。最前列には透明シートが用意されている。水除け用、なのだろうか。「まさか、水が飛んでくるわけじゃないよね?」 アルフレッドのヘアカラーが気になってしまい、眉間にしわを寄せた。「念のため、後ろの席に座ろう」 アルフレッドは最後列を指差す。「最後列に透明シートがないなら、水は飛んでこないんだろう」 心配よりも好奇心が勝ったらしい。アルフレッドからも、ゼインからも撤退という言葉は出なかった。最後列の席に座り、イルカの登場を待ちわびる。 そこへ、飼育員の女性が一人登場した。何やら手で合図を送ると、三匹のイルカたちがプールからステージへと飛び出す。「みなさーん、こんにちはー」「こんにちはー!」 飼育員の挨拶に、子供たちの可愛らしい声が反応する。すると、イルカもヒレをパタパタと振ってくれるのだ。「何このイルカ! 可愛いー!」 思わず声を上げていた。ゼインは頷き、誇らしげに腕を組む。「そうでしょ? ティア様なら気に入ると思ったんですよ」 アルフレッドの方を見てみると、彼もまた無言で目を輝かせるのだった。こちらも可愛い。無意識のうちに拳を握る。 そこで気付いてしまった。プールの後ろにある窓に、雨が打ち付けているのを。 次の話暴かれる3›