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「水力、風力、太陽光に続き、持続可能な社会に欠かせないサスティナブルな第四の資源、魔法使いが操る魔法の力。今朝は八名のパネリストの皆様と共に、様々な角度からめぐる問題について議論してゆきたいと思います」
紺のスーツは沈着冷静の典型だけど、司会者はすっかり前のめりで両側に難し気な顔をずらり従えてる。朝の八時からこんな番組を放送するなんて時代だなと思うけれど、こうやってガス抜きしなきゃ労働組合が暴れたりするらしいから、きっとこちらのほうが健全なんだろう。
壁に埋め込まれたテレビの前、議論の当事者でもある魔法使いのあたしことオーキュ・ハンドレッドは、そうしてココアをよくかき混ぜた。両手で包み込みふーふー、息を吹きかける。
「なお本日、魔法協会、ボルシェブニク会長はお仕事の都合によりリモートでのご参加となっております。会長、お忙しいところを本日はよろしくお願いいたします」
聞こえて視線を上げた。
わ、本当だ。
友人が言ったとおり。切り替わった画面には我が母校、ボルシェブニキー魔技専門学校、校長の顔が映し出されてる。
「はいはい、よろしくよろしく。どうも木星で急な人命救助が生じましてね。リモートで失礼しておりますよ」
とはいっても式典で遠目に拝顔しただけだから、アップで目にした今日、初めてはっきり知ったようなぐあいだった。
「それは校長、連日報道されております坑道崩落の、ですか」
「その通り。どうやら重機での救出ですと、さらなる崩落の恐れがあるようでしてね。ほかにも八名ほどビリオンマルキュール級の魔法使いが集められておるとのことです。まあこのさいですから今後は、掘削そのものを魔法で行うよう提言するつもりでおります」
木星だなんてさすが校長。立て続け「ふぉ、ふぉ、ふぉ」と笑う顔の上で、この時ばかりとかぶった校章入りのとんがり帽も誇らしげに揺れている。そんな具合に母校の宣伝を忘れない校長の抜かりのなさもなかなかだと思うけど、招集された魔法使いの顔ぶれを想像すれば壮観で、あたしは目を回してた。だってビリオンマルキュール級なんて、いったいあたし何人分の魔力の持ち主たちだろう。持てる魔力の量は血の濃さで決まるとして、そうも高密度の魔力を使ったところでかかる圧力に沸騰しない血には畏れしかない。
「お言葉ですが会長」
震えていると声は不躾に放たれる。
「安全と持続可能を盾にしたそのような越権行為が、魔法を持たぬ人々から不当に雇用を奪っているのではないでしょうか」
切り替わったカメラが、「弁護士」のプレートを立てた女性を映し出した。並ぶパネリストの一番端から校長へ鋭い視線を投げている。
「ここは必要最低限とせめてディスポロイドに作業をさせてはいかがでしょうか。製造工場は潤いますし、使い捨てとはいえ一部は再利用されます。なにより昨今、魔法の乱用により過酷な労働環境に置かれた魔法使いの労働、ひいては人権問題もまた......」
淀みない主張は明らかなフライングね。もう論議は始められていて、気づいた司会者が慌てふためき「おおっと」なんて話を遮っていた。
「その件につきましてはのちほどしっかりお伺いさせていただくとして、改めまして、ただいまより討論を始めさせていただきます。皆様、どうぞよろしくお願いいたします」
物心ついた頃からおばあちゃんは「魔法使いの血を引く者は、おごらない、ひねくれない、惑わされてはならない」と教えてくれている。
その血はおばあちゃんを経て私の中にも流れると、知ったパパとママは飛び上がって喜んだそう。だっておばあちゃんの息子だっていうのにパパはからきし血を継いでいなかったし、ママも魔法が使えるほど濃い血の持ち主ではなかった。だから二人にとってあたしは引く手あまたの未来が待つ希望の星ってわけだった。
でもそれ以上に気合が入ったのは、おばあちゃんの方。あたしが赤ん坊の頃から三つの教えを繰り返すと、物心つくころには魔法がどれだけ人の役に立っているのかを見せるため勤め先へ連れて行ってくれている。自分の能力に興味を持つのは早ければ早い方がいいって、魔法を使って遊んでくれたこともあった。ママがまだ早いと言ってもちょっとした呪文を練習させてくれたことだって。
そんなおばあちゃんはあたしにとって憧れの偉大な魔法使いで間違いない。実際、腕前を頼ってやってくるお客さんへ魔法で応えるおばあちゃんは格好よかったし、いつかあたしもああなるんだって気持ちはそのとき芽生えてた。
十三のとき「ボルシェブニキー魔技専門学校」への進学を決めたのも、だからごく自然な成り行きというところ。血を整える衣食住から三年間、みっちり学ぶボルシェブニキーが厳しさで有名な全寮制だろうと、欠片も迷ったりしなかった。入学式で誇りと使命感に満ちた顔ぶれを目にした時なんて、あたしも立派な魔法使いになっておばあちゃんに認めてもらうんだって意気込んだくらい。
毎年、文化祭で演じられる「大魔法使いアーサー」には「血が決めた宿命を技で切り開いてゆくのだ」ってセリフがある。それから三年間の魔技校生活は、本当にセリフ通りの毎日になった。
テレビではボルシェブニク校長をまじえた議論が白熱してる。
あたしはいいあんばい冷めてきたココアを口に含んだ。
けれどそれは三年生も残り数カ月になったときのこと。おばあちゃんが病気になったという知らせは、何の前触れもなくあたしの元に届いてた。
血の濃い魔法使いほど、長らく魔法を使うことで敗血症のリスクが上がるっていうのは魔技校でも最初に学んだ知識のひとつだったけど、困った人を放っておけなかったおばあちゃんはまったくそのとおりと酷使した魔法のせいで、その一人になってしまったようだった。濁った血はあっという間におばあちゃんから魔法を奪い、使ってあたしへ会いに来ることをできなくさせている。そしてあたしこそ勝手と寮を抜け出せないなら、あたしたちはそれきりお別れになってしまった。
卒業式では緋色のマントでおばあちゃんと写真を撮るんだって思っていたけれど、迎えたその日は想像とまるで違って不思議な気分しかしていない。とっとと働き口を決めたみんなのキラキラした笑顔と涙はどこか遠い場所の出来事のようで、何も決める気分になれなかったあたしだけが光の外にポツンといた。
写真はパパとママが一緒に撮ってくれている。
でもごめんね。
そういうんじゃないんだ。
終えて最後の荷物を取りに寮の部屋へ戻った時を、今でもはっきり覚えてる。あたしは革張りの筒に入った卒業証書を手に、マントと三角帽を身につけていて、パパとママは表に停めた車の中で待っていた。
最後に歩く廊下に万感の思いなんてまるでない。ただ馴染んだ部屋のノブを引き開ける。
と、隙間からひらりそれは落ちていた。
目をやって拾い上げ、あたしはひどく驚かされる。
だっておばあちゃんからの手紙だったのだもの。あて名の優しい文字には間違いがなくて、それって今日、届くよう手配してたってことだとしか思えなくなる。だとすれば冴えないあたしを見透かしたおばあちゃんらしいサプライズで、ぎゅうと胸は締め付けられてたまらなかった。堪えて手紙の封を切ってゆく。並ぶ文字へあたしは目を走らせた。