異世界ファンタジー長編連載中
明日も、ダンジョンへ。
♡ 0
五十歳の看護師にとって、久しぶりに取れた一週間の夏季休暇。
旅行の予定も、人と会う約束もない。
彼が選んだ休暇の過ごし方は、サービス開始から一か月のVRMMORPG《アステルナ・オンライン》へ、初めてログインすることだった。
若い青年の姿を作り、名前は「ノワール」。
選んだのは剣術と水魔法。
現実では三十年、人の命を預かってきた。
だからゲームの中でまで、誰かを治す役をするつもりはない。
剣を振って、魔法を覚えて、まだ見たことのない場所へ行く。
ただの冒険者として、好きに遊ぶつもりだった。
王都で暮らし始めたノワールは、剣を教わり、依頼を受け、やがて短剣使いのエルザ、盾を持つヴェラと行動を共にするようになる。
無理なら引き返す。
怪我をすれば休む。
依頼では、倒すことより無事に帰ることを優先する。
食事をして、道具を選び、失敗して、少しずつできることを増やしていく。
そんな冒険者としての日々を、三人は重ねていく。
けれど、この世界には少しだけ妙なところがある。
説明書にあるはずの数字が表示されない。
NPCたちは、ゲームの登場人物と呼ぶにはあまりに自然に生きている。
そしてノワール自身にも、彼の知らない何かがある。
それでも、今日やることは変わらない。
依頼を受けて、仲間と歩いて、生きて帰る。
これは世界を救う英雄になるためではなく、
もう一度、自分の人生を選び直していく男と、その隣を歩く者たちの物語。
今日も無事に帰れたなら――
明日も、ダンジョンへ。